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2人の生活4

「同棲? 付き合い始めてまだ数ヶ月でしょう。それでもう同棲!」 「うん。立樹が一緒に住みたいって言って、それで引っ越した」 「いつよ」 「2週間前」 「で、なんで今日一緒じゃないの。イケメン拝みたかったのに」 「立樹は今日は歓迎会で遅くなるって。だから1人で来た」 「あ、そぉ〜。でも同棲までが早いわね」 「俺、全然考えてなかった」 「その前に、今まで同棲なんてしたことある?」 「あ、ないや」 「でしょう」  今日は立樹が派遣さんの歓迎会だから帰りが遅くなるって言ってたから、俺は一人であきママの店に来た。  金曜日ということもあって店は結構ざわざわしてる。でも、本格的に混むのはこれからで、それまでには店を出ようと思ってさっさとあきママを捕まえた。  同棲を始めたことを伝えると目を丸くして驚いていた。 「男同士で付き合うのがハードル高いんじゃなかったの?」 「俺もそう思った。でもさ、一緒に部屋の内覧行くのもベッド買いに行くのも平然としてるんだよ。俺なんか恥ずかしいし、男同士だからなにか言われるんじゃないかって思ってたのにさ」 「男っていうハードル越えちゃったら、それ以降のことはなんでもないのかしらね」 「わかんないけど」 「ノンケ恐るべしだわね」 「俺もびっくりだよ」  確かに付き合いは順調だ。それでも付き合って3ヶ月で同棲を始めるとは思わなかった。そんなに早いのなら、なんで立樹は結婚する前に元カノと同棲してなかったんだろう。今になって疑問だ。  俺の場合は確かに週末は立樹とずっと一緒だからそれで十分だった。立樹だって立樹の時間が必要だし。そう思っていた。だけど、同棲を言い始めたのは立樹からだ。 「どうせ週末は一緒だったんでしょう」 「うん。金曜の夜から日曜の夕方まで一緒だった」 「それで居心地がいいと思ったんでしょうね」 「ふ〜ん」 「ちょっと! あんたのことでしょうよ」 「そうだけど、わかんないもん」 「あんたは居心地がいいと思わなかったの?」 「思ったけどさ、同棲なんてしたことないからそんな頭回らなかったよ」 「立樹は短いけど結婚してたから一緒に住める住めないっていうのが肌感覚でわかったんでしょうね。それにしても早いけど」 「ねー。びっくりだよね」 「でも嫌じゃないんでしょう」 「嫌なら断ってるよ」 「そうよね」 「でさ、今度引っ越すときは2人で住む家買ったときって」 「家を買うの?! そこまで計画してるの?!」 「そうみたい。そんなことになったらまた2人で内覧行かなきゃだよ。恥ずかしい」 「嫌なわけじゃないのね、あんたも」 「だって、現実味がないから」  そう。  2人で住む家を買うというのはすごい夢だ。そんなに簡単ではない。住宅ローンを組まなきゃいけないし、どちらの名義で組むかの問題もある。  それ以前に、家まで買っちゃったら簡単には別れられないんじゃないかと思う。  もちろん、別れを見据えて付き合っているわけじゃない。立樹とはずっと一緒にいたいと思う。でも、男女の結婚みたいに2人を縛るものがあるわけじゃない。気持ちひとつなんだ。だから簡単に考えられない。でも、立樹は考えていて。それは半年とはいえ結婚してたからなのか俺にはわからないけれど。 「ノンケって侮っちゃいけないわね。生粋のゲイでそこまで考えて付き合ってるカップルなんてどれほどいるのか」 「だよねー。せいぜい賃貸での同棲だよね」 「そうね。その先を考えることは稀よ」  今の日本の法律では同性婚は認められていない。だから同棲がゴールのようになってしまう。いや、結婚じゃないけれど近いものとしてパートナーシップ制度がある。  でも、その制度を使うカップルってどれだけいるのか。少なくとも俺は聞いたことがない。  立樹がそこまで考えているかはわからない。だけど、そこらのゲイカップルがなかなか考えないところまで考えているような気がする。 「でも、そんな彼と付き合ってるんだから、あんたも真面目に考えなきゃね」 「一緒に住む家を考えるなら、パートナーシップ制度も頭にあるのかな? というか俺たちの住んでるところって制度を認めてるのかどうかも知らないよ」 「ノンケだからその制度のことを知ってるかはわからないけど、念のために考えておいた方がいいんじゃなーい?」 「そうだね。そうする。一体、今、俺の身になにが起こってるんだろう」 「まぁ、でも幸せじゃない? 先までしっかり見据えてるんだもの。興味本位で付き合うノンケもいるんだから、それから見たらあんた幸せよ」 「そっか、そうだよね」 「そうよー。まぁ、なにかあったらまた来なさい。あ、なくても来ていいのよ。ただ、来るなら今度は立樹を連れてきてね。目の保養したいから」 「そんなこと言ってると彼氏にチクっちゃうよ」 「大丈夫よ、それくらい」 「ま、伝えておくよ。じゃ、今日は帰るね」 「はいはーい、待ってるわ」  そう言って店が混みはじめた頃に店をでた。  パートナーシップ制度。  この制度を立樹は知っているのか。それはわからない。でも、家を買う話しが出るくらいだから知ってると考えてもいいかもしれない。  俺はそこまで考えられるのか? 立樹とほんとにずっと一緒にいたいと思っているのか?  1人の夜にそんなことを考えた。

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