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未来のために5

 それぞれの親への挨拶は、家が近いということから先に悠の両親に挨拶に行くことにした。  お兄さんが1人いるけれど、結婚して実家を離れているということで家にいるのはお父さんとお母さんの2人だった。  悠の両親ということで俺も緊張していたけれど、悠もかなり緊張していた。 「立樹。もし両親に反対されても俺は立樹のそばから離れないから!」  家の玄関ドアを開ける前に悠が言った。 「ありがとう。でも、反対されても理解して貰えるまで頭下げよう」 「うん! よし! 開ける!」  かなり緊張しているせいか、玄関ドアを開けるのも声を出さないと無理なようだ。  ガチャリと玄関を開けると、奥からお母さんらしき人が出てくる。 「悠、おかえりなさい」 「母さん、ただいま。父さんいるよね? 立樹、あがって」 「あの、こんにちは。瀬名立樹です。お邪魔します」 「こんにちは。悠の母です。どうぞ。狭い家だけど、上がってください」 「はい。お邪魔します」  そう言えば結婚を決めたときに唯奈の両親に会いに行ったけれど、そのとき以上に緊張する。  それは今回が同性だからなのだろうか。  緊張して口の中がからからだ。  リビングに通され、中へ行くとお父さんが背筋をピンと伸ばしてソファに座っていた。 「悠、先に行っていて。コーヒー淹れたら行くから」 「わかった」 「あ、あの。これ、つまらないものですが」  そう言ってキッチンに行こうとする悠の母親に持ってきた菓子折を渡す。  中身は悠のお母さんの好きな近所の洋菓子店のロールケーキだ。 「父さん、ただいま」  両親の前では普通を装ってはいるけれど、声が上ずっているのがわかる。 「おかえり」 「あの。瀬名立樹です。今日はお時間を頂き、ありがとうございます」 「悠の父です。どうぞお座りください」 「ありがとうございます」    お父さんに勧められて、L字ソファの短い方へ座る。  お父さんの声も固かった。つまり、ここにいる4人全員が緊張していることになる。   「お待たせ。瀬名さんから大好きなロールケーキ頂いたの。みんなで食べましょう」  そう言ってお母さんがコーヒーとロールケーキを持って来てくれる。 「ここのほんとに美味しいのよ。ささ、瀬名さんも遠慮せずに食べて」 「ありがとうございます」 「悠、あんたも食べなさい」 「うん……あのさ……」  悠はお母さんがお父さんの隣に座ったのを見て口を開いた。 「あの。電話で母さんに紹介したい人がいるって言ったけど、俺、立樹とパートナーシップ宣誓することにした! あの、パートナーシップ制度っていうのがあってさ、それって、えっと同性カップルがお互いをパートナーだということを宣誓する制度のことなんだ。それを立樹と宣誓する」  もう緊張から早く言ってしまいたかったのだろう。俺の言うべきことを悠は下を向いて一気に言ってしまった。   「あの。私と悠さんは男同士ですが、真剣にお付き合いをさせて頂いています。どうかパートナーシップを結ぶことを許して頂けないでしょうか」  悠の言葉の後を追って言う。   「あの……ごめん」 「お前は謝るようななにかをしたのか?」 「え? えと……してないけど。でも、父さんと母さんは驚かせちゃったと思うから」 「だいたい気づいてはいたわよ」 「え?」  悠は目を丸くしてお母さんの方を見た。 「だって、あんた一度も彼女連れてきたことないし。あげくにはテレビ見てても女優さんには興味なさそうだったもの。きっと女の人に興味ないんだわと思ってたの。そして、紹介したい人がいるって言って、男性だってあらかじめ聞いてたから」 「そっか……」  悠は気づかれていたことにびっくりしていた。  そしてお父さんが口を開く。 「世間は同性であることに批判したり白い目で見たりする人もいるだろう。そう言った覚悟はできてるのか?」 「出来てます」 「出来てる」 「そうか。そうしたら後は2人で決めて、そのパートナーシップ宣誓というのをしなさい」 「わかった」 「ありがとうございます」 「瀬名さん。悠は少し暢気で甘えん坊なところがあるけれど、真面目で優しい子なんです。だから、これから悠のことをよろしくお願いします」  そう言ってお母さんが頭をさげる。 「こちらこそ。悠さんと最後まで一緒にいますので、見守って頂けたら嬉しいです」 「もちろんよ。さ! 堅苦しい話しはこれで終わり。ロールケーキ食べましょう。悠は私が好きなの知ってても買ってきてくれないんだもの」 「でも、立樹に教えたの俺だよ」 「教えるなら買ってきなさいよ」  お母さんと悠の言い合いを聞いていると親子仲がいいのがわかる。そしてお父さんは口数が少ないようだ。 「瀬名さん。これからよろしくお願いします」  お父さんが静かに頭を下げる。 「いえ。こちらこそよろしくお願いします」  俺も慌てて頭を下げる。そして頭をあげるとお父さんは小さく微笑んでいた。その表情を見て、認めて貰えたのだと安心した。

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