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君との結婚式3

「悠、明日買い物に行こう」  金曜日の夜、2人で晩酌をしていると立樹がそう言った。 「買い物? いいけど、なにを買うの?」 「それは明日のお楽しみ」  立樹は楽しそうな顔をしているけど、その表情の意味がわからない。わからないけど、なにか欲しいものがあるんだろうと思って頷いた。  楽しそうな顔をしているということは楽しいことなんだろう。そう思ってそれ以上考えることはなかった。  でも、もう少し考えるべきだった。いや、訊くべきだった。そうしたらもう少し心の準備ができたのに。 「立樹、俺は入れないよ。だから立樹1人で買ってきて」 「それじゃあ2人で選べないだろ」 「いや、俺はどれでもいいから。立樹に任せるから」 「2人の結婚なんだから2人で決めなきゃなんだろ。式を決めるときにそう言ったのは悠だよ」 「そうだけど、でもこれは違うというか」  俺たちがそう言い合っているのは高級宝飾店の前だ。  昨日、立樹が買いたいものがあると言っていたお店がここで、立樹は一言こう言った。 「結婚指輪買ってなかったから買おう」  確かに結婚指輪は買っていなかった。というより結婚指輪の存在をすっかり忘れていた。  それを思い出して買おうとするのはいい。でも、お店で2人で選ぶのは無理だろう。  でも、立樹は聞く耳を持ってくれない。 「それはいいけど、立樹1人で行って来て。俺はそこのカフェで待ってるから。でなかったら、パンフレット! そう。パンフレット貰ってきてくれたら2人で選べるよ」  我ながらナイスアイデア! と思ったけれど立樹に却下された。 「サイズはどうするの」 「えっと、サイズ直しとか……」 「そんなことしてたらハワイに行くまでに間に合わないよ」 「それは、ほら、後でもいいじゃん」 「なに言ってるの。ほら、行くよ」  俺が完全に及び腰になっているのを見て、立樹は俺の手を掴んで店内へ入っていく。  こんなに強引な立樹は初めてだ。 「立樹、恥ずかしいよ。手、離して」 「手、離したら逃げるだろ」 「だって、2人で選ぶなんて無理だよ。そんなの恥ずかしい」 「ここで言い合ってる方が恥ずかしいと思うよ」 「そうかもしれないけど……」  確かにここで言い合っているのは目立つし恥ずかしい。でも、店内へ入ったら2人で結婚指輪を見なきゃいけない。つまり俺たち2人がカップルなのがわかってしまう。  俺は根っからのゲイだけど、男同士でなにかをやったりするということは恥ずかしくて苦手だ。  まして結婚指輪なんて言ったら、俺と立樹がカップルで結婚式を挙げるということがわかってしまう。そんな恥ずかしいことを出来るわけがない。  でも、立樹は俺の手を離してくれない。 「とにかく2人で選ぶよ。俺、1人では選ばない。結婚指輪はそんなものじゃない。簡単に買い換えるようなものじゃないんだからな」  それはわかるけれど、恥ずかしいというのは変わらない。でも、立樹が言っていることが正しいので俺の方が分が悪い。 「こんなところで話しているうちにさっさと選んで帰った方が恥ずかしくないんじゃないの? その方が早くここから立ち去れるよ」 「じゃあ早く選んで帰ろう」  立樹のまともな意見に、俺は恥ずかしさを忘れて結婚指輪を選ぶことになった。

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