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君との結婚式4
「こちらがウエディングリングになります」
立樹が結婚指輪を見たいと言うと、男2人で来店しているのに店員さんは奇異の目を向けることなく、普通のことのように対応してくれた。
そして立樹も堂々としている。堂々としてればなにかを言われたりはしないのかな? と考える。
「悠、どれがいい?」
立樹が当たり前のように俺に訊いてくるので、店員さんも普通の態度なので俺も開き直ることにした。
「シンプルなのがいい」
「だとするとこの辺かな。あ、これどう?」
立樹が指さしたのはフォルムがウエーブになっているお洒落なものだった。
ただのかまぼこタイプのでは面白くないのでいいかもしれない。
でも内側を見るとダイヤが一粒埋まっていた。
「お洒落だね」
すると店員さんはそれをスッと分けて置いた。
そして俺たちはまた他のリングを見ていく。
「あ、これは?」
「どれ?」
「このプラチナとゴールドが捻ってあるやつ」
「これ?」
「そう」
女性じゃないからキラキラしたダイヤに興味がない。それよりも職場でつけても華美にならないシンプルなものの方がいい。
そして、店員さんはまたそれをスッと分ける。後で見やすいようにだ。
他にもいくつか候補をあげて、分けられたものの中から再度見ていく。
「よろしければご試着ください」
そう言われて試着してみる。試着してみるとまた印象が違った。
その中でいいな、と思ったのは最初に選んだ2つのものだった。
プラチナがウエーブになっているものとプラチナとゴールドが捻ってあるものだ。
「迷うね」
「そうだな」
「でも、こっちの方がいいかなー?」
そう言って俺は最初に立樹が選んだフォルムがウエーブになったものをはめてみた。外側はほんとにシンプルで、でも内側にはダイヤが一粒埋まっている。
「これなら飽きがこないんじゃないか」
プラチナとゴールドが捻ってあるものもお洒落だけど、なんだか飽きが来そうな気がした。
「じゃあ、それにする?」
「そうだね」
そして内側に刻印ができるというので立樹と色々言葉を出し合って、”I was Born to Love You”という言葉を刻印して貰うことにした。
もちろん、ダイヤは一粒埋まっている。
そしていつ頃出来るかと訊くと1ヶ月ほどかかるということで、ハワイへ出発する少し前にはできるらしい。
結婚指輪がこんなに時間がかかるなんて知らなかった。サイズがあえばいいんじゃないかと考えていた。
この辺は立樹が一度結婚したことがあるからわかったことだろうなと思う。でも、そんなことを考えて胸が痛む。今はもう立樹は俺のものなのに。未だにあの結婚式に参列したことは辛い出来事だ。
そんなことを考えて気持ちが沈みかけたので頭を振って、気持ちを切り替える。
「悠? どうした?」
「え? あぁ、なんでもない」
「頭でも痛い?」
「ううん、痛くないよ。大丈夫」
「もう終わりだからちょっと待ってて」
立樹は心配そうに俺を見る。
いつもそうだ。いつも俺のことを最優先して、ちょっとでも様子がおかしいと心配する。思えば省吾さんもそうだった。
そうして1ヶ月付き合った省吾さんのことを思い出す。あの後、いい人に出会えただろうか。結局俺は好きになれなかったけど、俺なんかに執着せずに幸せになって欲しいと思う。
あのとき俺は立樹のことを諦めなければと思って悲しかったけど、今はそんな忘れようとした立樹が隣にいる。そのことが夢のようだった。
いや、隣にいるだけでも夢のようなのに結婚指輪まで買いに来た。嘘のように幸せだ。
「じゃあよろしくお願いします」
俺が色んなことを考えている間に立樹は購入のことをあれこれとお店の人と話していたようだ。俺のしたのって選んだだけだ。
「ごめん。何から何まで。俺なにもしてない」
「選んだだろ。それでいいんだよ。それより頭痛いのは大丈夫? 薬買いに行こうか?」
「違う違う。頭痛いわけじゃないから大丈夫だよ」
「そうか? それなら良かった」
そう言って甘い顔で笑う。最近は見慣れてきたものの、この表情には尻がむず痒くなってくる。恋人になったばかりの頃から変わらない。
そんな立樹が好きだと思う。それを今伝えたくて、立樹の耳元で小さな声で、好きだよと言うと、立樹は声を潜めることもなく堂々と俺も好きだよと言って来た。
イケメンがそんな言葉を言うものだから周囲の人が俺のことを見て来たから、俺は立ち止まって両手で顔を覆ってしまった。
「ほら、そんな可愛いことしないの。そんなことしてると、ここでキスするよ」
「いや、結構です!」
そう言って俺は立樹を置いて歩き出した。
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