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番外編3

 高千穂峡へ着き駐車場に車を駐め、ゆっくりと歩いてボート乗り場へと向かう。  立樹が前もって予約をしておいてくれたのでスムーズにボートを借りることができた。当日だといっぱいだったりすることもあるようだ。   「俺、ボート漕いだことない」 「俺もないけど、俺が漕ぐから」 「そう? ありがとう」  ボートを漕いで遠くまで行くわけではないけれど、漕ぐのには若干不安が残る。こういうとき立樹はなにも言わずに引き受けてくれる。   「じゃあ俺は写真撮るね」  ボートに乗り上を見上げる。この断崖は80メートルから100メートルの高さがあるらしい。高すぎて見上げていると首が痛くなるほどだ。 「すごい迫力だね」 「そうだな。まずは滝に行くぞ」 「うん」  あまり滝に近づきすぎると濡れるので少し滝から離れたところから見る。高い崖の上から真っ直ぐに落ちてくる滝は圧巻だ。 「俺、滝好きなんだよね」  俺は子供の頃から滝が好きで出かけた先で滝があると聞けば必ず足をのばす。 「なんで?」 「なんていうか、こうさ〜。こう、くるものがあるじゃん」 「何を言ってるのかわからないぞ」 「だって表現難しいよ」 「まぁ、でもなんとなくわかる気がする。心が洗われるような気もするしな」 「そう。それ!」  俺が身を乗り出して言うと、危ないと窘められる。 「あ、ごめん」  こんなところで川に落ちるのは嫌だ。決して泳げないわけじゃないけど得意じゃないし、何よりここで服を着たまま泳ぐのは嫌だ。ボートに乗るのも難しそうだし。 「写真撮った?」 「撮ってるよ。もう少し進もう」 「もう少し早い時間ならもっと陽がさしてるらしいんだけど、お昼食べてたからね」 「もう1時間早い飛行機なら良かったのかな」 「でも、6時半羽田発は無理だろう。前乗りで空港近くのホテルに泊まらないと無理だよ」 「定時で仕事を終えない限りは無理だよね」 「まぁでも全く陽がさしてないわけじゃないしな」  そう。今だって陽はさしているのだ。ただ、もう少し陽がさしていたら見える景色もまた少し違うのかもしれない。  念のため撮った写真を確認してみると十分綺麗に撮れていた。立樹にも見せる。 「十分綺麗だよ」 「だな。というより岩撮ってるのか」 「うん。だって模様っていうのかな、それが普通では見られない感じだから」 「確かにそうだな」 「何か撮りたいのある?」 「いや。悠に任せるよ」 「この川ってまだ先続いてるんだよね。時間ある?」 「あー、そんなに時間ないや。あと10分」  少し漕いでは止まりを繰り返していたら何気に時間が経ってしまっていたようだ。 「じゃあもう少し進んだら戻ろうか」 「そうだな。30分はあっという間だな」 「だね。写真撮るのに時間がかかり過ぎた」  今、自分の目で見ている景色を余すことなく写真に残したいと思っていたら時間がいくらあっても足りないんだということがわかった。 「延長っていうのもあるみたいだけど、10分で1,000円らしい」  オールを漕ぐのをやめ、スマホを見ていた立樹が言う。   「10分で1,000円は高いよ」 「だよな」    結局、少し写真撮影を控えて、行けるところまで行った。30分はあっという間だったけど、この素晴らしい渓谷を下から眺めることができて良かったと思う。

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