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番外編4
高千穂峡から宿泊先までは立樹の運転で行く。これから行けばちょうどチェックインの時間になる。そしてここまで来てもどこに宿泊するのか教えてくれない。
「なんで教えてくれないの?」
「その方がびっくりするだろ?」
そう言って立樹は笑う。
「と言うことはびっくりするようなところなんだね」
「どうなんだろうな。もうさ、諦めて着いたときに驚いてよ」
どうやっても俺を驚かせたいらしい。ここまで頑なに口を開かないというのはそこへ行けば必ず俺がびっくりするというのがわかっているということだ。ということは、びっくりすることが確定しているということだ。気になるな。でも教えてはくれないし。そう考えてため息をついた。もう着いたときにびっくりしよう。
「もういいよ。おとなしく着くのを待つよ」
「うん、そうしてて」
宿泊先を訊くのを諦めた俺は、行きには楽しめなかった外の景色をを楽しむことにした。そんなふうに景色を眺めていたらあくびをしてしまった。
「悠、眠かったら寝ていいからな」
「そんな。立樹だって同じくらい疲れてるんだから」
「悠は空港から高千穂峡まで運転してたんだから俺より疲れてるだろ。だから眠かったら無理に起きてなくていいから」
そう言って立樹は優しく笑う。立樹のこういう優しいところが好きだなと思う。パートナーシップ宣誓をしてから5年。まだ立樹にときめくことはあるし、好きだなと思うこともある。きっと俺はいつまでも立樹のことを好きなんだろうなと思う。それは立樹も同じだと思いたい。
そんなふうに景色を見ながら考えていると、いつの間にか寝てしまっていたみたいで立樹に起こされた。
「悠。起きて。着いたぞ。悠」
ぐっすりと寝てしまっていたらしく、肩を揺すられてやっと目を覚ました。そして、目の前の建物にびっくりして口をぽかんと開けてしまう。目の前には古めかしい温泉旅館ではなく、見上げて首が痛くなってしまうほどの高いビルのような建物があった。しかもそれは高級そうな。いや、間違いなく高級だ。だから黙っていたんだ。
「立樹。ほんとにここ?」
「ほんとだよ」
「だって、どう見たって高いだろ」
「節目だからな。ちょっと奮発した」
「いや、ちょっとじゃない気がする」
「まぁいいから。行こう」
ホテルの中に入ると更にゴージャスで場違い感がすごい。これ、かなりの奮発だろ。とんでもなく高級なホテルだ。
と立樹はフロントをすり抜けエレベーターに向かう。
「え。立樹、チェックインしないと」
「するよ」
「だって、フロント過ぎちゃってるよ」
「いいんだよ」
なにを言っているのかさっぱりわからない。チェックインはフロントでするものだ。じゃないと部屋の鍵も貰えないし。
でも立樹は涼しい顔をしてエレベーターに乗る。
「ほら、行くぞ」
「あ、うん」
エレベーターに乗っちゃってどうするんだろう。
俺と立樹を乗せたエレベーターはどんどん上へと上がり、静かに止まった。
「降りるよ」
エレベーターを降りるとホテルマンが慇懃に頭をさげて迎えてくれる。これってもしかして、とんでもなく高いんじゃないか?
「悠、座って待ってて。チェックインしてくるから」
そう言って立樹は別のスタッフに声をかけチェックイン手続きをしている。
こんなに高級ホテル自体、そんなに泊まったことないけど、普通のフロントデスクではなく、特別フロアでのチェックインとなったら、またとんでもなく高級な部屋を取ったということだ。
確かに5周年で節目の年ではあるけれど、こんなに贅沢していいんだろうか。窓の外には青い海が広がっている。ここに来るまで寝ていたからわからなかったけれど、海に面しているらしい。ということは部屋によっては海が見えるということだ。部屋から海見たいなぁ。そんなふうに窓の外を眺めているとチェックインを終えた立樹が戻ってきた。
「お待たせ。部屋に行こう」
「うん。何階?」
「39階。あまり上階じゃなくてごめんな。でも、いい部屋取ったから」
エレベーターを39階で降り廊下を奥へと進んでいく。部屋番号を確認すると角部屋のようだ。
部屋のドアを開けると広々としたリビングと、窓の外には海が見えた。
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