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番外編9

 スープの後は伊勢エビだった。  コース料理でこのあとステーキが出てくるというのに豪勢に1人1尾だった。きっと高いコースなんだろうなと思うけれど、食べるときにそんなことを考えていたら楽しめることも楽しめなくなるので考えるのをやめる。記念日だからいいんだ。普段食べるわけじゃないんだから。それでも贅沢だなとは思う。 「なんかすごい贅沢なんだけど」 「まぁ記念日だから」  結局、立樹の口から出るのも「記念日だから」だった。よくいいレストランでは記念日のコース料理っていうのがあるみたいだから、それなのかもしれない。 「IQ低いことしか言えないけど、美味しいよな〜」 「こうも美味いとそうなっちゃうよな。でも、ほんとに美味いよな。家でなんて食べられないから味わっておいて」    立樹の言葉につい笑ってしまう。確かに家では食べられないよな。 「次、いつ食べられるかわからないしね」 「それな。奮発したときしか食べられないから」 「次、奮発するのは来年の記念日のときかな?」 「でも、洋食とは限らないし、洋食だとしても伊勢エビが出るとは限らないからな」 「あ、そうか。しっかり味わっておく」  俺がそう言うと立樹は小さく笑う。だって、そうそう食べられるものじゃないんだから仕方ないだろ。そういう意味を込めて少し睨むが立樹の笑いは収まらない。  もう立樹のことを放って俺は目の前の伊勢エビを食べることに集中する。  プリッとした身とみそがたまらない。味付けはシンプルに塩だけだったけれど、それだけで十分だった。これにソースをかけてしまったらもったいない気がする。  あまりに美味しくて、食べるのがもったいなくて手はゆっくりとしか進まない。それを見た立樹にどうしたのかと訊かれる。 「んー。食べるのもったいない」  そう言うと立樹は完全に笑い出した。 「そんなに笑うことないだろ! だって次、いつ食べられるか考えたらさ」 「そんなに伊勢エビ好きだった?」 「逆に訊くけど、嫌いな人なんている? 甲殻アレルギーの人くらいじゃん?」 「確かにそうだけどさ」 「じゃあ来年の記念日は、なにを食べたいか悠に任せるよ。伊勢エビがよければそうするし」 「ほんと? じゃあ来年食べられるってことにしとく」  そう思うと普通に食べ始める。そんな俺を見て立樹は笑ったままだ。 「ほんと悠は可愛いな」  視線を立樹に向けると笑うのを止め、目を細めて俺を見ている。甘い目だ。立樹のこの目を見ると恥ずかしくなってしまう。  自分で言うのもなんだけど、可愛いと言われるのは立樹が初めてじゃない。それでも好きな人に言われるのは恥ずかしい。もっとも男で可愛いというのはどうなのかと思うけれど、それはもう慣れた。  そんなことを話しをしながら食べているとお皿は空になってしまう。まぁいい。来年の記念日は俺の食べたいものを選ばせてくれるというから。

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