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番外編18

 着いた神社は森の端にある小さな神社だった。もっと大きい神社かと思ったらあまりの小ささに驚いた。でも、創建は古すぎていつになるのかわからないという。祭神は伊邪那岐命と伊邪那美命。現在の本殿は明治20年、拝殿は昭和10年に再建されたという。近くには黄泉国から戻ったイザナギが禊をしたという池がある。 「この神社一帯がパワースポットらしいよ」  そのせいか小さな神社なのに人(断然、女性)が多い。良縁、安産の神と言えば確かに女性観光客が多いのも頷ける。 「車じゃなかったら池の方に行ってもいいけど、ちょっと時間かかっちゃうんだよね。ホテルの近くに行っちゃうんだ」 「そうなんだ。まぁ池はいいよ。とりあえず神社に参拝できれば」  参道を歩き、ご神木を通り過ぎる。コブに触るのは帰りでいい。まずは拝殿へと進み参拝する。俺たちの前も後ろも女性観光客だ。そして、その観光客が通り過ぎるたびに立樹に見蕩れてる。そうだった。普段はゲイバーばかりに行ってるから忘れてたけど、当然だけど女性にモテるんだった。その光景に思わずため息をついてしまう。 「きっと今、ここを参拝している人の中には立樹との縁を願ってる人もいるんだろうな〜」  ちょっと不貞腐れてそんなことを言うと立樹は俺の耳元で言った。 「俺には悠だけだよ」  その言葉に溜飲を下げる。我ながら単純だ。でも、これだけはいいたい。 「イケメンすぎるんだよ!」  そう言うと立樹は笑い出した。なにが面白いんだ。フツメンなら良かったのにと一目惚れした自分が言うのもどうかと思うけど。 「そんなこと言ってないで、コブ触って帰るんでだろ」  なんかスルーされてるけど、まぁいいか。  コブを触って帰る人は当然多くて、列を成している。そして俺たちの番になってしっかりと触って来た。これで強運の持ち主になったらいいなと思いながら神社を後にした。  神社からホテルまでは車ですぐだった。コンビニに寄って飲み物を買ってから部屋へと戻る。時計を見ると16時半を回っていた。ワイナリーまで片道約1時間だから、思ったより時間がかかってしまったようだ。 「月の道部屋で見るんだっけ?」 「うん。部屋で見よう。少し部屋でゆっくりする時間欲しい。せっかくのスイートだし」 「了解。夕食は19時に予約してあるから、それまでゆっくりしよう」 「いつのまに予約したの?」 「悠が寝ている間に電話しておいた」  立樹のスマートさに俺は舌を巻く。どこまでも仕事のできる男だ。こんなにいい男が俺のモノってたまに信じられなくなるときがある。まさに今がそのときだ。  今日、強運を得られるようにコブ触って帰ってきたけど、もしかしたら立樹とパートナーシップ宣誓をしたことは強運の持ち主だったってならない? とんでもないイケメンで料理ができてデートのエスコートもスマートで。誰だって立樹のこと好きになる。 「立樹ってすごいね。すごいスマートで惚れ直す」 「惚れ直してくれるなら嬉しいよ。悠に喜んで欲しくてしてることだから。そんなことよりお茶飲んでゆっくりしよう。海、見えるぞ」  この旅行だけで何回惚れ直しているか立樹は知らない。一々言ってないけど。そんな惚れ直す男の隣に座り、海を眺めた。

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