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番外編19

 リビングのソファに座り、海を眺める。俺は海が好きだ。見ているとリラックスできるし心が落ち着く。  何を話すでもなく黙って海を見ていると陽が暮れてきた。   「あ、月が昇ってきた」  月がゆっくりと海から昇ってきた。月光が海に映り、細長い光の道が海面に現れた。これが月の道か。神秘的で綺麗だなと思う。  満月のときだけというから、ひと月に数日しかないのに運良く満月の日にあたるなんてラッキーとしかいいようがない。 「綺麗だね」 「だな。確かに道になってる」 「こんなに綺麗な光景があるんだね」  そんなことを話しながら、それでも静かに月の道を見る。神秘的でロマンティックで、思わず見入ってしまう。こんなに綺麗な景色を知れたこの旅行はほんとに楽しいし幸せだ。 「っと。悠、もっと見てたいところだけど夕食行かないと時間だ」 「あ。予約してあるんだもんね。行かなきゃ」  もっと月の道を見ていたいけれど、お腹も空いてきたし、お店も予約してあるから行かなきゃいけない。なにしろ割烹料理だ。普段和食なんて普通に食べているけど、きちんとした懐石料理なんて食べる機会はない。だから懐石料理は楽しみにしていたんだ。  エレベーターで1階に降りる。1階の奥にそのお店はあった。店の佇まいからして高級そうだ。なんだか昨日から贅沢してばかりで大丈夫なんだろうか。まぁ、こんなことは特別だからな。 「予約してある瀬名です」  店のスタッフに告げ、席に案内される。そこは半個室だった。人目を気にせずに食べられる個室は好きだ。 「もう料理も頼んであるんだよね?」 「もちろん」 「どんなの?」 「昨夜、今朝と宮崎牛を堪能したから今夜は海の幸だよ」 「やった!」  今日の朝のブッフェに宮崎牛が使われていたから、もしかしたら明日の朝も食べられるかもしれない。となると海の幸を楽しむのは今晩しかない。よく考えてるよな、立樹。 「懐石って食べたことがないわけじゃないけど、なかなか食べる機会ないよね」 「そうだな。普通の和食ならあるけど、自分から食べに行った懐石は一度だけだな」 「だよね。俺もそんなもんだよ」  まぁ、海に近いところのいい旅館で部屋食にしたら懐石ということはあるけれど、わざわざ懐石料理の店に食べに行くことは少ない。  ワクワクしながら料理が出てくるのを待っていると、ほどなくして料理が運ばれてくる。  箱御膳会席というもので、季節の八寸、天麩羅、焚き合せ、酢の物がお膳に詰められ、吸い物、お造り、茶わん蒸し付き、炊き込みご飯がついている。八寸は銀杏だし、炊き込みご飯は焼松茸の混ぜ込み釜飯で秋を感じさせた。 「松茸だ! 天麩羅もお造りもあって、松茸もあって。豪華過ぎる」 「まぁ、少しずつだけどな」 「でも十分な量だよ。でもごめん。酢の物は食べれない」 「残せばいいよ」  ほんとは全部食べたいところだけど、酢の物だけはどうしても無理だ。無理すれば食べれなくはないけど、おいしく料理を楽しむことができなくなる。だから、ごめんなさいだけど、残すことにする。 「さ、食べよう」 「うん。いただきまーす」 「いただきます」  手を合わせてから食事を食べ始めた。

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