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番外編20

「料理で秋を感じさせるっていいなぁ。季節を感じさせるのとか和食はよくあるよね。洋食だとどこの国の料理でもあまり感じないというか。あるのかもしれないけど」 「確かにそうだな。家で食べる料理だって旬のものを食べたりするし。今だと秋刀魚とか食べるだろ」 「秋刀魚、この間食べたね。美味しかった」 「脂のってるからな」  そんなことを話しながら箸を進めていく。銀杏の使われた八寸を最初に食べ、長芋と人参の炊き合せ、天麩羅、お造りと順に食べて行く。  炊き合せは薄味で上品な味だし、天麩羅も油くさくない。そして進む茶わん蒸しにも銀杏が入っていて、銀杏の好きな俺には嬉しかった。  最後にお造りを食べて炊き込みご飯でしめる。 「松茸なんて高くて普段食べられないよね」 「外国産は香りが弱いから、どうしても国産がいいけど高いんだよな。韓国産とか安いけど香りがしない」 「松茸は香りが命だからね」 「香りのない松茸食べるなら他の食べた方が安いし美味しい」  韓国に行ったときにお土産として松茸が売っていたけど、ほんとに香りが弱かった。確かに価格は日本のと比べると断然安いけど、香りのない松茸は食べる意味がないので買わなかった。でも、この炊き込みご飯の松茸はきちんと香りがする。この香りがいいんだよなぁ。  目を瞑って松茸の香りを吸い込んでいると立樹の笑う声が聞こえた。 「ほんとに美味そうに食べるよな」 「だって美味しいもん」 「俺の作った料理にさえ美味そうにしてくれる」 「立樹のご飯美味しいよ」 「そう言って食べてくれるから作りがいがある」  そういえば実家にいるとき母親に同じことを言われたことがあるなと思い出す。立樹の料理も母親の料理もほんとに美味しいと思って食べてる。だから美味しいと言っているんだけど、ムスっとして食べられると美味しくないのかと思うって母親が言っていた。 「母親が同じこと言ってた。俺もほんとに美味しくないと美味しいって言わないよ」 「だろうな。もっとも悠の場合は顔に出るからわかるけど」 「顔に?」 「そう。表情に全部出る」  そんなに顔に出ているのか。美味しいものを食べてると幸せを感じるんだけど、きっとそういうのも出てしまっているのだろう。そう思うと恥ずかしい。でも、美味しいものは美味しいようにしか食べられないからなと思いながら松茸を見る。例えば今松茸を食べて思っていることも顔に出ているってことだろうか。うん、やっぱり少し恥ずかしい。 「悠は特に美味いものを食べると顔が蕩けちゃってるからな」 「恥ずかしい。松茸食べてたとき、そんな顔してた?」 「してた。でも、それでいいんだよ。食に興味ない、なにを食べても一緒っていうヤツじゃ一緒に食事しててもつまらないし、作る気にもならない」 「俺の場合、食に興味ありすぎる」  そう言うと立樹は腹を抱えて笑い出した。そんなにおかしなことを言っただろうか。ほんとのことを言っただけなんだけど。 「悠はそのままでいていいんだよ」  立樹が笑っている間に食べ終えた俺は、箸を置きお茶を飲む。うん、お茶も美味しい。でもなにかデザート食べたいな。   「食べ終わったし帰るか」  散々笑っていたのに気がつけば立樹も食べ終わっていたようだ。 「デザート買って行ってもいい?」 「食べれるならな」 「ハーゲンダッツの季節限定モノが食べたくて」 「じゃあコンビニ寄って帰るか」 「うん!」  そう言って地下1階まで降り、コンビニでアイスを買って部屋へと戻った。

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