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第27話 凍てついた夜

 今日は金曜日。ディアボラは混むだろう。素敵な出会いがあるかもしれない。  ミコトは自分に気合いを入れた。  凍夜が女性同伴で入って来た。ひときわ華やかな取り巻きを連れて、ヒーローの登場だ。  数人、入ってきた客は、それぞれ別の凍夜の指名客だった。同伴した女性以外にも,何人も待っている。同伴した女性をエスコートしてVIP席に案内する。しばらく何か話をして凍夜は、グラスを持ち上げて、席を立つ。  ミコトは、いつもは淳か零士のヘルプに付くのだが、今日は凍夜の席につかされた。円城寺の采配だ。 「いらっしゃいませ。ミコトです。 シャンパンを召し上がってるんですか?」 その女性は 「あら、初めてね。 そうなの。いつもここは勝手にシャンパンを持ってくる。バカの一つ覚え、みたいにね。 私、ウヰスキーが呑みたいわ。」 「何か、ご用意します。お好きな銘柄があれば。」 「うん、じゃあジャックダニエル。ブラックラベルでいいからボトルでちょうだい。 ソーダで割るわ。あなたも好きなもの呑んで。」 「それでは、オレもジャックダニエル、いただきます。」 「それじゃ、売り上げにならないんじゃないの? 高いワインでもいいのよ。」 「ありがとうございます。オレ、ウヰスキー好きなんです。」  ハイボールを作って乾杯した。 「お名前教えていただけませんか?」 「あ、私、徳田凪(とくだなぎ)」 「あの、有名な作家さん?」 「知ってるの? 読んだことあるか?なんて無粋な事は聞かないわ。 話題変えましょ。」 (凪さんは綺麗な人だった。年齢不詳。 凍夜とはどんな知り合いなんだろう?)  いくつかのテーブルが凍夜を指名しているらしく忙しそうだ。 「凪さんって呼んでもいいですか?」  会話が続かない。 「オレ、ダメですか?」 凪はミコトの手を取って笑いながら話し始めた。 「今日はやっと凍夜と会えて、同伴する事が出来た。ミコトちゃん、男から見て凍夜ってどう?」 「どうって、、かっこいいです。」 「そうね、私も見てるだけでいいわ。 なんていうか、あの暗い美貌。」  凪は凍夜の事になると急に饒舌になった。 いかに凍夜の時間を自分に向けてもらえるか、 涙ぐましい努力をしているそうだ。  有名な作家で、今をときめく大先生なのに、全てが凍夜のためなんだそうだ。 「文学賞を取りたい、と思ったのも凍夜のため。 死にもの狂いで書きまくったのよ。」  もちろん才能があったのだ。 文学賞は結果だ。 頑張るだけでは取れないだろう。

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