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第29話 凍てついた夜 3
『バー高任』のマスターのアイラ島でのウヰスキー作りの話は、興味深く楽しかった。
ウヰスキーにはロマンがある。
アイラ島の風の中で、抱き合って立っている傑と礼於。目に浮かぶようだ。
ドラマチックな出会い。ミコトは憧れてやまない。
午前3時、もう客も捌けてバーは静かだ。ドアを開けて、なんと凍夜が入って来た。
「ホントに来たんだ?
アフターは?
お客さん、よく離してくれたね。」
「来るって言ったろ。みんな撒いてきたんだ。」「なんで?ここには女の子もいないよ。
マスターとレオンはラブラブカップルだし、
オレじゃ役不足だろ。何話していいかわからない。気が利かなくてごめん。」
「別に。誰も煩くしない所に来たかっただけだ。
おまえに何も期待してないよ。」
レオンは意味深な目で凍夜を見た。
何も言わず、ただウヰスキーを舐めている。
疲れた顔。それもまた、惚れ惚れするほど色っぽい。
ミコトは、隣に座って何も言うことが思い浮かばないまま、無言でいる。
凍夜はいろんな女性と恋をして疲れているのか。恋に疲れるなんて、色っぽくてカッコいい。
その後、ミコトは一人でつぶやいていた。自分の願望を、脈絡もなく、喋り続けた。小さな声で。
どうせ誰も聞いてない。
「マスター、会計して。
それとタクシー呼んでください。」
凍夜はあまり酔っていないようだ。それとも醒めたのか。凍夜にとって長い一日だったろう。
「お待たせしました。」
タクシーが来た。
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