29 / 101

第29話 凍てついた夜 3

『バー高任』のマスターのアイラ島でのウヰスキー作りの話は、興味深く楽しかった。  ウヰスキーにはロマンがある。 アイラ島の風の中で、抱き合って立っている傑と礼於。目に浮かぶようだ。  ドラマチックな出会い。ミコトは憧れてやまない。  午前3時、もう客も捌けてバーは静かだ。ドアを開けて、なんと凍夜が入って来た。 「ホントに来たんだ? アフターは? お客さん、よく離してくれたね。」 「来るって言ったろ。みんな撒いてきたんだ。」「なんで?ここには女の子もいないよ。 マスターとレオンはラブラブカップルだし、 オレじゃ役不足だろ。何話していいかわからない。気が利かなくてごめん。」 「別に。誰も煩くしない所に来たかっただけだ。 おまえに何も期待してないよ。」  レオンは意味深な目で凍夜を見た。 何も言わず、ただウヰスキーを舐めている。  疲れた顔。それもまた、惚れ惚れするほど色っぽい。  ミコトは、隣に座って何も言うことが思い浮かばないまま、無言でいる。  凍夜はいろんな女性と恋をして疲れているのか。恋に疲れるなんて、色っぽくてカッコいい。  その後、ミコトは一人でつぶやいていた。自分の願望を、脈絡もなく、喋り続けた。小さな声で。  どうせ誰も聞いてない。 「マスター、会計して。 それとタクシー呼んでください。」  凍夜はあまり酔っていないようだ。それとも醒めたのか。凍夜にとって長い一日だったろう。 「お待たせしました。」 タクシーが来た。

ともだちにシェアしよう!