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第30話 凍てついた夜 4
凍夜はミコトの腕を取って耳元で
「俺と朝まで一緒にいてくれ。」
「え?え?何?」
呆然とするミコトを抱えて待っているタクシーに乗り込んだ。
行き先を言ってシートに深くもたれて凍夜は眠ってしまった。眠ったフリかな?
そう思いながらミコトも眠ってしまった。
しばらく走って凍夜のマンションに着いたらしい。
ここはどこ?郊外の知らない町だ。
こんな遠い所から通ってるわけはない。ここはどこだろう?
タクシーから降りて、手を引かれてタワーマンションに入って行った。
郊外のタワマンというのは周りに何も無い。閑静な土地を開発したタワマンの立地には、歩いて行けそうな店とか、駅とか全く見当たらない。
きれいな公園に囲まれてわざとらしく整えられた所で、隣のタワマンまででも、相当離れているようだ。見えているのに遠い。人がたくさん住んでいるはずなのに気配がない。生活感がない。
真夜中だからか?もうすぐ夜が明ける。1人で帰れない。ミコトは不安になった。
(この男は何なんだ?何か言えよ。)
ミコトは引きこもりが長かったから世の中が怖い。心の中では強気だが、いざとなると怖気ずく。
エントランスを抜けてエレベーターも乗り継いで、やっと凍夜の部屋に着いた。
「入って。誰もいないよ。俺の家だから。」
「オレ、もう用はないんじゃないの?
ここまで来ちゃって、帰り方がわからないよ。」
凍夜が笑って
「ごめん。後で送って行くよ。」
そう言った。なんだか、凍夜らしくない。
「改めて、俺は山川凍夜。
本名は、ふゆなりと書いて冬也、だけど。」
「ここに住んでるの?」
「ああ、ここは俺の本当の住まい。
いつもは女の所を転々としてるか、都心のホテルに泊まる。
一人の女の所に長く居ると期待させるから。
滅多にここには帰らない。寂しすぎるだろ。
何にもないんだ。」
ドアを開けて部屋に通された。
新しい部屋の匂いがする。シンプルでおしゃれな家具が、雑誌からそのまま持って来たように置かれている。素敵だけどよそよそしい。
人が暮らしている感じがない。
「一人で住んでるの?
なんでオレを連れて来たんだ?」
高そうなインテリアを自慢したいわけでもないだろうに。
「ああ、ごめん。
一人になりたくない時もあるんだよ。
ちょうど、おまえがいたからさ。
調子に乗るなよ。特別じゃない。」
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