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第31話 凍てついた夜 5
「凍夜は凄い女ったらしで、ヤリチンで、
『アンジー』の嬢、全部とヤッタって。
みんな泣いてるって。」
「ひどい噂だな。
確かにしつこく迫ってくる女は、仕方なく抱いたけど、全部じゃない。
女を抱くのは、仕事、だと思ってる。」
「なんで、オレを連れて来たの?
凍夜は俺の事、知らないでしょ。オレはまだ、ホストになってから日が浅いよ。」
目の前の凍夜の立ち姿は実にカッコいい。仕事着の凍夜は、ザ・ホストって感じだ。背が高くて肩が広い。逞しい事に初めて気が付いた。
ミコトを見つめて話すその仕草がたまらなくセクシーだ。何もしてないのに。触れ合っているわけでは無いのに。
思わずそのジャケットに手を伸ばしてしまう。
これが一流ホストのオーラか。クラクラする。部屋に2人きり。どんな女だって心奪われるだろう。頭がおかしくなりそうだ。
「帰りたいけど、タクシーとか呼べるかな?」
「待って。少し眠ったら、車で送って行くよ。
風呂に入ってアルコールを抜くから。」
そう言って寝室に消えた。
手持ち無沙汰に部屋を探索する。
「ほんと、何にも無い。
食べるものもカップ麺しか無い。
お湯は沸かせるのかな?」
空腹ではない。むしろ胸がいっぱいだ。飲み物は水しかないようだ。
「サンペレグリノ?
日本の水でいいよ。気取っちゃって。」
ソファにさっきまで凍夜が着ていたジャケットがかけてある。手に取って抱きしめた。
「凍夜の匂い。」
ミコトは切なくなった。凍夜を好きになったのか?変な気持ちだ。
ミコトはこんな初めての場所で、混乱しているのだ、と考えた。
吊り橋効果?
不安と怖さを愛と勘違いする。
凍夜の匂いのするジャケットを抱きしめて、ソファで眠ってしまった。
肩を揺り起こされた。
「おい、ジャケットがシワになるだろ。
ヨダレとか付けてないか。」
(そうだ、ひどい男、だった。)
「下に降りよう。車は地下だ。」
先に行ってしまう。鍵かけなくていいのか!
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