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第35話 凍てついた夜 9

 夢のようにカッコいい、凍夜と車。 海岸の駐車場に停めて、降りてくるこの人は一体何者?  素敵すぎる。まさしく『白馬の王子様』。 今時は白馬ならぬ、ランボルギーニだ。 「どうした?少し歩いてみるか?」  すっかり酔いが覚めたミコトは、夢のような景色に現実感がない。  くたびれた安物のスーツで、寝ぼけて現実について行けてない。  よろよろと酔い覚めの覚束ない足取りのミコトを見かねて凍夜が支えてくれた。  凍夜の匂い。仕事用なのか、多分仄かなムスクの混じったパヒューム。  ムスクは催淫剤なんだって、聞いた事がある。 さすが、女ったらしの凍夜。 「凍夜、いい匂い。 オレじゃ意味ないね。 こんな素敵な凍夜をオレ一人で見てるのもったいないね。」 「何言ってんだよ。 大丈夫か?気持ち悪く無いか?  昨日からずっと、俺が連れまわし てるからな。」 「今日は日曜日だね。 これからどうするの?」 「どうしようか? 疲れたろ。家に帰ってゆっくりするか? 飯食おう。この辺は海鮮が美味いんだ。  東京に帰るより俺のマンションのほうが近いよ。」 「うん、凍夜に任せる。」 波打ち際を濡れないように凍夜に抱かれて歩いた。 「夢の中にいるみたい?」 「はは、可愛いな。」 「ばんや」っていう食堂に入った。 「いらっしゃい、あら一人じゃ無いの? 珍しいわね。」 女将さんと顔見知りのようだ。  もの凄く美味しい海鮮丼を食べた。 鮪とかお刺身が数種類、ケンカしない。程よい盛り合わせでどれも新鮮だ。  海鮮丼は、いろんな種類のお刺身が乗ってるから、下手な板前さんだと生臭くなる。  ここのは、全部邪魔しない盛り方で、絶妙だ。 大盛りならいいと、こぼれるほど盛り上げるのを売りにしてる店もあるようだが、観光客向け、か?  本当に魚を知ってる人には絶妙なバランスで盛り付けてあるからどれも美味しく食べられる。  アラ汁がついている。澄んだ潮汁が、これも美味しい。 「ミコトは食べ物の好き嫌い無いのか? 美味そうに食べるな。食べ方が気持ちいい。」  ニコニコ嬉しそうな凍夜。珍しい。

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