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第37話 苦い麦

 客間のベッドでぐっすり眠った。凍夜は自分の寝室で眠ってるようだ。  早く寝たのでミコトは変な時間に目が覚めてしまった。まだ日付が変わってない。11時。  明日の夜までに帰れば、ディアボラに間に合う。今は日曜の夜?  ヤマトにメールは、送った。今夜も凍夜のマンションに泊まるって送った。  ヤマトから「がんばれ!」って返信。 (何を頑張るんだ?) 「お腹空いたな。凍夜が何か買い物して車から持って来てた。何買ったんだろ。  食べ物あるかな。」  レジ袋っぽいモノを漁る。パンが数種類入ってた。あと、缶ビール。   缶ビールを見たら涙が出て来た。嫌な事を思い出した。ジョッキの生ビールならマシなんだけど 缶ビールは飲めない。トラウマがある。  苦い麦。  後ろから抱きしめられた。 「何泣いてんだ?」 「凍夜、起きてたの。」  大した事じゃ無い。 人生には無かったことにしたい、と思う出来事がある。  それは主に「恥」の思い出と繋がっている。  やっと二十歳になって家を出た。 何もかもが怖い。 10才の頃からずっと、母さんの男、が同居していた。母さんは再婚して一応この男が父親になった。  本当の父さんは、ミコトが小さい頃出て行ったらしい。その後来たのが、母さんの男。母さんと似合いの真面目なおじさん。  母さんは美人だった。オレはよく母親似だと言われた。  オレは10才の頃から、その男にイタズラされて来た。セックスをされた事はない。  ただ母さんの目を盗んで、身体を触ってくる。 それが子供心にも何とも言えない嫌な感じだった。恥の共有。とうさんと二人だけの秘密だ、と言われた。それも気持ち悪い。こんな気持ち悪い人と二人だけの秘密を持っている。  無理に精通させられて、痛くて気持ち悪かった。凄くおぞましいのに、射精は快感だった。  それがとても恥ずかしい。 恥ずかしいなんてもんじゃない。  嫌な気持ちで、自分はもう普通じゃ無いんだ、と思った。最低の人間と二人だけのひみつを持ってしまった。自分も最低の人間。  いっそ、一人なら最低でも仕方ない。 けれどあの男は、世界でたった二人の秘密を持ったと言う。 私たちは離れられないよ、と念を押される。 そのおぞましさ。

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