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第39話 苦い麦 3
「凍夜はビール飲むの?」
「ああ、水代わりだ。酒はあまり好きではないが、ビールなら手軽だろ。」
凍夜と並んで話をした。何故、ビールを飲めないか、を。初めて人に話した。
「辛い事、話させたね。じゃ俺も話すよ。」
凍夜は凍てついた夜、と皮肉を込めて名乗っている事を話してくれた。
「ずっと一人だったから、一人ではいられない。
矛盾した気持ちにいつも引き裂かれる。」
子供の頃からずっと、
「冬也は一人が好きなんだ。」
そう言ってみんな遠巻きに見てるだけ。
誰も近寄って来ない。心を開いて見せてくれない。どうしてだろう?
子供の頃から類稀(たぐいまれ)な容姿はみんなから浮いていた。裕福な家に育ち、母からバレエ団に入れられた。
突出した運動神経で頭角を現し、高校生の頃には将来を嘱望されていた。
クラシックバレエから始めた厳しい世界。今でも立ち姿は無意識に5番の足になる。
留学の話が出る。クラシックならヨーロッパか。その頃からコンテンポラリーダンスに惹かれていた。それなら本場、アメリカか?
高校2年の夏休みにアメリカのバレエシーンを見に行った。圧倒された。
厳しさが違う。身体能力が違う。
葛藤の中で、キッパリと辞める選択をした。
気がつけば誰も相談出来る友がいなかった。
「俺、友達がいないんだ。キースは、今は親友なんて言ってるけど、ずっとライバルだったし。
セフレしかいない。」
そう言って笑う凍夜。
「クラシックバレエやってたんだ。
モダンバレエかと思った。
オレ違いがわからないけど。」
ミコトは、よく知らない世界だ。
「全然違うよ。窮屈なのがクラシック。
初めて人に話したんだ。
本当は寂しがり屋なんだ。
こんな事言って、明日になったら、おまえの顔を見られないな。恥ずかしくて。」
「オレも、初めて人に話したんだよ。
子供っぽいよね。本当に犯された事は無いのに。」
「そんな事はない。
俺が寂しがり屋だ,って言うのも恥だぜ。
かなり、小っ恥ずかしい。
いつもクールを気取ってるのに。」
「お互いに秘密を話しちゃったね。
オレ、人に言うの初めてだ。」
「じゃあ、セックスは一生したくないの?」
「ううん、それが・・
ヤマトとタケルの愛し合ってる所を見ちゃったんだ。少し考えが変わった。
ヤマトとタケルは綺麗だったんだ。お互いに大切に愛し合ってるのは美しい。羨ましかった。
それで考えが変わった。
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