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第41話 ホスト
日常は過ぎて行く。ミコトは、凍夜の印象が少し変わった気がする。
その端正な顔。引き締まって無駄のない身体。
筋肉質だけどマッチョと言うよりスレンダーだ。
そして強靭な発条(ばね)の肉体。鋼(はがね)の肉体。気がつくとそのセクシーさに目が離せない。
(オレ、ガキだった。凍夜のセクシーさに気がつく余裕がなかった。)
何故、あんなに指名が多いのか?
ディアボラではレオンがナンバーワンだが、実力では凍夜も引けを取らない。そして、なにより、彼はフリーなのだ。
誰も独り占め出来ない。誰のものでも無い。
だから、みんなで牽制しながら、抜け駆けしないで凍夜を見守る。
みんなが、いつか自分のものになるかもしれない、と夢をみる。
夢を見させるのがホストの仕事なら、凍夜はプロ、だ。
ミコトもあの凍夜のマンションに行った事が夢のように思える。あれから何も無い。
もう、朝まで一緒にいてくれ、なんて言ってくれない。車にも乗せてくれない。
(あれは夢だったのか?
でも、オレはトラウマから救われた。)
凍夜は、
「もうあの呪いは無くなった。
おまえは自由だ。」
と言った。
凍夜が、秘密をぶっ壊した。
だから、凍夜に感謝した。何故か、共犯者になったようなのが嬉しかった。
ミコトは、屈折している。
あの男との過去はおぞましい。けれど凍夜と分かち合ったあの夜は、忘れられない。
相変わらず、チェリーボーイだけれど、ホストの仕事は楽しい。いつからか、凍夜に会うため、嬉々として出勤するようになった。
今日は、指名が入った。
「いらっしゃいませ。ミコトです。
ご指名ありがとうございます。」
指名客は『アンジー』のナザレだった。
以前エレベーターホールで名刺を交換した。
もう一人、綺麗な女の人。二人とも、道を歩いていたら誰もが振り返るような美人だ。
「ナザレさん,ありがとう。
お友達ですか?」
「『アンジー』のマリアよ。
ミコトは『アンジー』に来たことなかったね。
今度、来てね。美人揃いよ。」
確かに極上の美人だ。
「あなたがミコトさん?
凍夜のお気に入りだって聞いたわよ。」
マリアに言われた。
「え?お気に入り?
だったらうれしいけど。弟分とか、言われたい。」
向こうのテーブルに凍夜がいる。冷たい目をして同伴相手を見ている。
相手は、頬を紅潮させた、凪だった。
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