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第62話 執行猶予?

 凪は、殺人未遂罪にもならないだろう。 そう弁護士と円城寺とショーンの三人は意見が一致している。接見禁止だが、弁護士は会える。    その夜、凪のテーブルにフルーツが出ていたのが幸いだった。凪がたまたまフルーツを切ろうとしてナイフを手にした時、運悪くショーンが躓いて凪に抱きついた、事になっている。偶然の過失、で押し通す作戦だ。  殺意はない。凶器を準備したわけでも無い。 「え?違うだろ。」 凍夜は蒼ざめる。 「ショーンは絶対に過失、不可抗力だと言い張ってる。それで、不法行為の責任は免れる。」 「そんな・・俺が罰せられなければならない案件かもしれないのに。」 「凍夜のは精神的な事だ。罪には問われないよ。 誰だって、ホストが女性客をフッたって、咎めるわけないから。」  ところが、問題がある、という。 凪が 全て自供したのだ。自分の心情を吐露したのだという。 凪の自白。 「私は明確な殺意を持って、ホストの山川冬也を襲う準備をしてディアボラに行きました。  殺したかったのは、ホストの凍夜こと、山川冬也です。凍夜を殺して、自分も死のう、と準備をして店に行きました。凍夜を愛していました。  家にあった果物ナイフをハンカチに包み、バッグに入れて行きました。  運悪く、ショーンという人に刺さってしまったのは残念です。  軽いケガならいいのですが。ショーンさんには謝りたいです。」  結局、キースの依頼した腕利きの弁護士も意味がなかった。  凪は、警察の取り調べになんでも素直に答え、心象はえらくよかったらしい。  殺意を認めた事により、殺人未遂罪になった。ただの傷害罪にならなかった。  殺人未遂罪は、殺人に準ずる罪だ。殺人と同じく、死刑、または無期、が考慮される。  殺意が明確なため、普通は執行猶予もないはずだ。被害者に対する直接の殺意はなかったため、裁判官を悩ませる判例になった。  ショーンに対しては殺意は無かったのだ。ショーンも、被害届を出すようなことではない、と警察で言い張っていた。  みんなが凪を守ろうとしていた中、本人はサッサと罪を認めた。  執行猶予、は付いた。ショーンに殺意は無かったから。  厳しい判決が、思いのほか、早い結審で決まった。執行猶予5年。5年と言う長さは、再犯の恐れからだった。凪は希死念慮が強い。そして凍夜と一緒に逝きたい、と思っている。  本来ならば野に放つのは危険なのだ。 凍夜にはそれがわかっていた。

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