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第63話 作家 徳田凪

 凪は、釈放されてからずっと、今度は必ず仕留める、と考えていた。 (私の手で殺す。私だけのモノにする。)    保護観察の必要性は厳しく申し送られて常に保護司の目があった。  凪は一応、職業作家として名を成している。 凪の事件はマスコミにも騒がれて、そちらでもいつも見張られている状態だった。  出版社が、凪の担当編集者を増やしてくれたのは、まだ利用価値が残っているからだ、と自虐的になる。  この心の疼き、葛藤、そして甘えが、凪に思い出に浸る事を許している。   熱い凍夜のくちづけ。 あの熱い夜を身体が覚えている。 「ピンポーン!」 (まただ、よくもまあ飽きずに来るわね。) 「凪、美味しいシュークリームを見つけたよ。 一緒に食べよう。」 (毎日のように来るのは、私の被害者。) ショーンを部屋に招き入れる。 「なんで毎日来るの? 週刊誌に愛人だって書かれてるよ。 また、私に刺されたいの?」 「ひどい事、言うなぁ。 ボクはあの日から凪が好きになったんだよ。 部屋に入れてくれるのはOKって事だろ?」 「ふん、所詮あなたもホストってわけね。 私はディアボラ、出入り禁止、でしょ。  指名してあげられないわね。残念ね。」 (ショーンは、被害者なのになんで私の所に来るのか?面白いから放って置くけど。)  保護司と編集者以外、誰も連絡はよこさない。寂しさにショーンを部屋に入れてしまう。  何もしない、安全な男。 だんだん気を許してきた。  眺めている分には綺麗な男なのだ。 凍夜のように心奪われる事はないが。  (あ、また凍夜と比べている。) 「私とセックスしたいの? あなただったら、女に不自由しないでしよ。  他に行きなさいよ。」 「ノーノー、凪が好きなんだ。 他の人はいらない。」 「じゃあ今すぐ抱いてよ。出来ないくせに。 こんな前科者と関わり合いになってはダメよ。」  ショーンは、凪をハグしてくれる。それ以上の、友情めいた距離を決して縮めない。  それは徐々に苛立ちに変わる。 何故か、この頃書くことが溢れてくる。 (私は作家、徳田凪。  負けるもんか!  私は一体何と戦ってるんだろう。  会いたいよ、凍夜。)

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