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第66話 小説『凍てついた夜』2
凪の独白ー
小説を書くキッカケは麻布の『バー高任』。
懇意にしている作家仲間の行きつけのバーだ。
長髪の素敵なマスターがカウンターの中から、迎えてくれる。
作家仲間の沼田レイモンはあまりおしゃべりではないので、お互いに静かに飲んでいる。
この空間が心地よい。この雰囲気が気に入って
一人でも来るようになった。
その日は、夜も遅い時間に、ハッとする美しい青年が入って来た。
「おかえり、礼於。」
マスターのパートナーだと紹介される。マスターはゲイだった。ゲイに偏見は無い。
しかし、自分は女なので、少し寂しい気持ちになる。
「まったく!世の中のいい男はみんなゲイなんだから。」
冗談のつもりで言ってみた。
「僕、六本木でホストをやってるんです。
ウチの店にはいい男がたくさんいますよ。
今度、ご案内しましょうか。」
好奇心で、レオンに同伴して、初めて『ディアボラ』に行った。レオンは礼於のホスト名だ。
『ディアボラ』は内装にも工夫を凝らした楽しい店。思っていたのと違う洗練されたクラブだった。
レオンがテーブルについてくれた。でも、人気のレオンはすぐに席を立つ。代わりにヘルプだと言う若い男が来た。あまり慣れていないようだ。
「初めまして、ミコトです。」
凄く若い。私は若い子が苦手。何を話していいのかわからない。
奥のVIP席から、女性を送って出て来た男を見て一瞬、息が止まった。目が釘付けだ。
その男が戻り際、ミコトに何か囁いた。
そして
「ミコトは俺の弟分なんで、何か、至らない点がありましたら、おっしゃってくださいね。
凍夜です。」
名刺を差し出した。
ああ、その名刺が宝物になるなんて!
凍夜。一瞬で心を奪われた。その夜は、夢見るようにずっと凍夜を眼で追い続けた。
(私、恋に落ちた。)
陳腐な言葉しか出て来ない。
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