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第68話 凍てついた夜

 この頃アフターをしなくなったという凍夜。夜はどうしているのだろう?  車で通勤して、真面目に家に帰っているらしい。夜遊び好きの凍夜がなぜ?  凪は愛車のプリウスで都合がつくと凍夜のマンションに行ってみる。部屋を見つけて外から眺める。タワマンだから、全く見えないが、近くにいるだけで満足する。暮らしぶりを想像して妄想に耽る。  一緒に買い物をしたり、この辺りの美味しい海鮮料理を食べに行ったり。  空想の二人の暮らしでは、凍夜は限りなく優しい。 (ここで二人きり。愛し合う暮らしがしたい。 こんな田舎で、知る人もいないところで。 凍夜だけを見て、凍夜だけを信じて。  凍夜も私だけを見つめて愛してくれる。) マンションの見える所に車を止めて、妄想は膨らむ。こうして何時間でも、時の経つのを忘れるのだ。  たまに『ディアボラ』に顔を出して、指名しても凍夜は店の中だけで終わろうとする。  もう凪の部屋には来てくれない。 「凍夜って、同じ女性と付き合うのは一回切り、なんですって?  もう、私の所には来てくれないの?」 凍夜は、凪を真っ直ぐ見つめて、 「そう、一回切り。でも凪の部屋には何回か行ったね。また、そのうちお邪魔するかもね。」  何の衒いもない瞳で見つめて言う。顔が近い。 くちづけされた。 (脳が溶ける。もっともっと、と貪欲になる。) 触れるような一瞬の後、 「この頃、忙しいんだ。 いろいろ身辺整理で、さ。」  凍夜の内面が劇的な変化を遂げている事を、凪は知る由もない。  凍夜のマンションを見張っても特に何の変化も無いように見える。  凍夜の黄色いランボルギーニ、の後を付けるのは、到底無理だから、外から眺めるだけだった。  凍夜は一人で真面目に通勤しているようだ。  ある時、白いスポーツカーで帰って来た。 新しい車? あのミコトという子を乗せている。  別に珍しいことでは無い。後輩を家に連れて来ただけだ、と思っても、心はザワザワするのだ。

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