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第69話 ミコトは全部持っている

(ぜんぜん違う。ただの後輩じゃない。 この空気は何!)  一回しか会った事はないが、凍夜が唯一親友だと言っていた車のディーラー、キースに会いに行く。 「こんにちは。あなた凍夜のお友達なのでしょう?教えて欲しいんだけど。」 「ショールームの応接室でよければ、どうぞ。」  まだ早い時間で客はいない。スタッフは事務室のあるカウンターに数人いるが、ここなら静かに話せるだろう。 「単刀直入に言うわね。 私、凍夜と結婚するつもりなの。 彼は他に女性もいないようだし。 それで少し気になる事があるのよ。 あなたなら彼のこと、1番よく知ってるって思ったの。いいかしら。」 「いや、僕はあなたの事をよく知らない。 プライベートな事をあなたに話すわけ無いでしょ。あなたが有名な作家だって事は知ってます。 だけど、それは凍夜のプライバシーを、暴露する理由にはならない。」 「そうね。『ディアボラ』は口の堅い人ばかりだし。男の友情に女が入る余地はないのね。」 なんだか凪が哀れになった。嘘で固めたホストの世界に、真剣になったら負けなのだ。  嘘の世界に、ノリ良く遊んで、朝になったら、日常に戻る。彼女はその境界線を無くしてしまったのか。 (凍夜がうっかり何度も相手して、勘違いさせたんだろう。あいつらしくもない。) 「一つだけ教えてあげましょう。 凍夜は、結婚したんだ。本当の結婚じゃないけど、魂の結婚。だから放っておいてあげなよ。」 「やっぱり。 そんな気がしてた。 その人を愛しているのね。」 「そう、今までの凍夜とは違うんだ。 もう、ホストもやめると思うよ。 僕が言えるのは、ここまで。 じゃ、営業があるから。」 (誰なの?相手は誰? この所、凍夜の周りに女の影は無かった。 いつもあの、ヘルプの新人を連れ歩いてたけど。 え?あの子?  まさか。ミコトって子なの? 直接聞いてみればいいのか。)

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