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第73話 感情

 彼に感情はない。ただの情もない。 ひたすらセックスで尽くす。その端正な顔が快楽で歪むのが堪らなくセクシーだ。 「ねぇ、今夜は帰らないで。」 そんな女を分け隔てなく抱く。ある意味平等なのだ。また、夢中になる女が増える。  VIP席のテーブルにマダムがいた。 「あなた、私を抱ける?」 「もちろんですよ、お美しいマダム。」 「ふざけてる?私80才よ。」 「年は関係ない。欲情しますよ。」 「じゃあ、今夜私の部屋に来る? ハイアットに部屋を取ってあるの。」  アルマン・ド・ブリニャックを1ダース、12本、彼のために店に入れてくれた。原価は1ダース約50万。店売りはその10倍、500万。  売り上げに貢献してくれる。 (オレの値段は500万、か。)  営業が終わって、アフターだ、と店に言ってホテルに行った。  ひとり、ドアをノックする。 「来たのね、嬉しいわ。」 抱きついてくちづけを求められる。覚悟はしていた。年は関係ない。美しい人だ。  ただ、愛が無い。 「あなた、渇いてるわ、心が。」  ソファに座って、彼の気が変わった。  「俺、今夜はあなたを抱けそうも無い。 ごめんなさい。あなたに魅力が無いってことじゃないんだ。」 マダムはニッコリ笑って 「やっと正直になったわね。 私もあなたとセックスするつもりはない。  いつも発情しているわけじゃ無いでしょう? お話でもしましょう。」  意外だった。マダムの博学と、体験の豊富さが、会話を楽しくした。 「ありがと、今夜は楽しかった。 ところで、あなたは男色が似合うわよ。  片っ端から女を抱くのは、本気にならないからじゃないの?  男を抱いてごらんなさい。きっと心から愛せるわ。今夜の事は二人の秘密、ふふふ。」 キュートな人だ。  彼女の元夫、世界的な文豪は、男色だったそうだ。男しか愛せない。マダムはそれを全部飲み込んで、話の聞き役に徹したらしい。 文豪は言った。 「本当に愛した女は君だけだよ。」 恋人の美少年の肩を抱いて、彼女におやすみのキスをすると2人で寝室へ消えて行く。 「愛した女は私だけ?そうね。」 一人残されて見送る事にも、いつしか慣れた。 「世界一いい女だね。ハグしてくれ。」  マダムの肩を抱きしめて帰って来た。 彼は自覚した。 (俺は惚れた男がいる。自分に正直になるよ。)  店にヘルプの新人がいる。店に入って来た時から目が離せない。  どんな女を抱いていても、心はいつも彼の事でいっぱいだった。ーー

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