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第75話 オレの男 2
嫌な気持ちがおさまらない。心に暗い影を落とす。現実の事ではないのに、不安が胸をいっぱいにする。
凍夜はこんなダメージをくらうとは思わなかった。小説の世界の話だ。虚構が現実を侵食してくる。
「ミコト、俺のそばを離れないで。」
握った手を離したくない。
当のミコトはケロリとして
「オレ、一度死んだ事にされたら、結構長生きするかもね。
よく、生前葬とかすると長生きだ、って言うじゃない。」
「ああ、俺のミコトは生きている。」
そう言って抱きしめる。
「ミコトが気にしないなら俺も気にしない事にする。そろそろ真剣にホストを辞める事を考えよう。俺だけの男にしたい。」
二人の家では、凍夜がいつも抱きしめてくれる。手を繋いでくれる。
ミコトの拙い料理を美味そうに食べる。目玉焼きしか作れない。醤油をかけて美味そうに食う。
炊き立てのご飯に目玉焼き。他に何も無くても凍夜は嬉しそうに食べる。ミコトのする事は何でも好きなのだ。
意外に凍夜は料理が上手かったりする。
「洗濯ってしないんだね。」
「ああ、ランドリーバスケットに全部突っ込んでおけば次の日には畳んで置いてあるよ。」
このマンションはリゾートとして売り出されたので、頼めば全てやってくれる。
洗濯も掃除も、マスターキーでプロがやってくれる。ホテルに滞在しているような感じだ。
ミコトはもちろん主婦ではないし、家事が得意ではない。
ヤマトとタケルの所では、交代で掃除をしたり、食事を作ったりした。合宿みたいで楽しかった。二人だけがミコトの本当の家族のような気がする。あのおぞましい男と、長年、いたずらされていることを、知っていたはずなのに助けてくれなかった母親は、家族とは思えない。
「いいなぁ。ヤマトとタケルの距離感がいい。
おまえの保護者って感じだな。」
凍夜の背中に抱きつく。
「うん、オレ、今すごい幸せ。
こんな素敵な恋人がいる。」
話しながら凍夜の胸の筋肉を触る。
「オレだけの筋肉。」
首に抱きついて耳元で
「オレだけの身体。」
ミコトは少し赤くなって
「やーらしーいね、オレ。
凍夜の身体、全部好き。」
「可愛いなぁ、いつも。」
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