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第78話 スーツ
『ディアボラ』を辞める事にした。円城寺が引き止める。
「折角、お客さんに認知されて順調に売り上げに繋がって来たんだ。
もう少し頑張ってくれよ。」
二人が同棲している事実を知らせても
「レオンだって旦那の許可を得て働いているよ。
あんな感じで週の半分でも、来てくれよ。」
中々承諾してくれない。仕方がないのでレオンから菫ちゃんに話を通してもらった。
「じゃあ、しばらくお休みしているって事で。本当にまた戻って来ると信じてるよ。」
引き止められるのは、嬉しいような、面倒なような。
「ミコト、二人でスーツ作ろう。」
「え、お店辞めるのに?」
「新しい門出だから、きちんとスーツを作る。
そして、写真を撮るんだ。」
凍夜がいつも仕立てている銀座の『テーラー嘉穂』に行った。
ミコトは初めて吊るしではないスーツをオーダーした。
生地選びから、採寸、デザイン決め、仮縫いが数回。何度か銀座に足を運び、スーツは出来てきた。ミコトにとって。こんな本格的なスーツははじめてだった。
凍夜は慣れた様子でいろいろと注文を付けて、
カッコいいスーツが出来た。
お揃いではないが、少しだけテイストが似ている。
「二人で記念写真を撮ろう。」
銀座の写真館で写真を撮った。
仲のいい兄弟のように。
それから、ミコトが座って、後ろから抱くように凍夜が立って結婚写真のように。
照れながら、何枚か、撮った。
そして改めて指輪を買った。もちろん結婚指輪。
といっても二人とも少し太めの男っぽいデザインにした。男女のペアリングはやめておいた。
「どこか、連れて行きたい。新婚旅行!」
「オレ、心配なんだ。
凍夜はホストで稼いでいたでしょ。
オレも普通の若い奴よりは、いいお給料もらってたけど。
今はお互いに無職でしょ。生活大丈夫なのかな?全部、凍夜が出してくれてるけど。
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