78 / 101

第78話 スーツ

 『ディアボラ』を辞める事にした。円城寺が引き止める。 「折角、お客さんに認知されて順調に売り上げに繋がって来たんだ。  もう少し頑張ってくれよ。」 二人が同棲している事実を知らせても 「レオンだって旦那の許可を得て働いているよ。 あんな感じで週の半分でも、来てくれよ。」 中々承諾してくれない。仕方がないのでレオンから菫ちゃんに話を通してもらった。 「じゃあ、しばらくお休みしているって事で。本当にまた戻って来ると信じてるよ。」  引き止められるのは、嬉しいような、面倒なような。 「ミコト、二人でスーツ作ろう。」 「え、お店辞めるのに?」 「新しい門出だから、きちんとスーツを作る。 そして、写真を撮るんだ。」  凍夜がいつも仕立てている銀座の『テーラー嘉穂』に行った。  ミコトは初めて吊るしではないスーツをオーダーした。  生地選びから、採寸、デザイン決め、仮縫いが数回。何度か銀座に足を運び、スーツは出来てきた。ミコトにとって。こんな本格的なスーツははじめてだった。  凍夜は慣れた様子でいろいろと注文を付けて、 カッコいいスーツが出来た。  お揃いではないが、少しだけテイストが似ている。 「二人で記念写真を撮ろう。」 銀座の写真館で写真を撮った。  仲のいい兄弟のように。 それから、ミコトが座って、後ろから抱くように凍夜が立って結婚写真のように。  照れながら、何枚か、撮った。 そして改めて指輪を買った。もちろん結婚指輪。 といっても二人とも少し太めの男っぽいデザインにした。男女のペアリングはやめておいた。 「どこか、連れて行きたい。新婚旅行!」 「オレ、心配なんだ。 凍夜はホストで稼いでいたでしょ。 オレも普通の若い奴よりは、いいお給料もらってたけど。  今はお互いに無職でしょ。生活大丈夫なのかな?全部、凍夜が出してくれてるけど。

ともだちにシェアしよう!