79 / 101
第79話 凍夜の事
「ああ、面倒だけど、ミコトと一生一緒にいるんだから、親、とか俺の家の事、話さないとな。」
「うん、オレの親の事は話したよね。
でも凍夜のことは知らない。
知らなくてもいいかな?今が幸せだから。」
凍夜がソファに座って
「ここにおいで。俺の一番大切な男(ひと)。
大事な話をしよう。」
隣に座って優しく肩を抱いてくれる。
ー凍夜の事ー
凍夜の母は、代々続く地方の資産家の一人娘で、婿養子を迎えたが、その関係は上手くいかなかった。
体裁を繕うため離婚はしなかったが、父の存在は、薄かった。
物心付いた頃には、父はほとんど家にいなかった。外に恋人がいたようだ。
母は金と時間が有り余っていて、凍夜を溺愛した。
凍夜は、甘やかされて育った事が凄く嫌だった。異常な執着を見せる母親が重荷だった。
だから、早く家を出て一人で生きて行きたいと、結構小さい頃から、考えていた。
身体を動かす事が好きだったから、バレエ教室は好きで自分から望んで通った。始めたのは3才の頃。母親の期待が負担だったが、バレエは好きだった。負けず嫌いで、身体が思うように動かないと泣きながらバーにしがみついた。
クラシックバレエは男の子は少ないからチヤホヤされて、それも楽しかった。
その頃キースもバレエ教室に入って来た。
キースの父親はドイツ人で、東京で車のディーラーをやっていた。日本人の母親は身体が弱く、空気のきれいな田舎に別荘を建てて暮らしていた。
毎週末、帰ってくる父と、2才年下の妹と、4人家族だった。凍夜の母親と、キースの母親は仲が良かった。
凍夜とキースは学校がずっと一緒だった。田舎だから選択肢も少ない。
妹のニーナはミュンヘンの中学に進学した。全寮制のギムナジウム。
ドイツ語ならギュムナーズィウム。
ニーナは唯我独尊。自立心の塊だった。一人っ子の凍夜はそのたくましさに憧れていた。
「ニーナは俺の初恋だった。」
そのたくましい娘は今、スイスの動物愛護団体で働いている。
凍夜は負けず嫌い。キースも適当な性格ながら、バレエだけは負けない、と二人は好敵手だった。
中学の頃になると身体が固くなり、バレエを続けられるのか、と葛藤したが、続いたのはお互いがいたからだった。
ともだちにシェアしよう!