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第85話 偶然

 高速に乗ってドライブした。  凍夜の車は人目を引く。自慢のような、気恥ずかしいような、でも、気分がいい。  凍夜の運転は、快適でドライブは楽しい。 今日は、温泉に行こうか、と家を出て来た。  一緒になって3年が過ぎた。 キースは相変わらずひとり者で、恋人を取っ替え引っ換え、リア充な感じだ。  ショーンと凪は、もう一人子供が出来て、落ち着いたパパとママになっている。  凪は純文学で頭角を現し、中堅の作家として認められている。 「あっ!」 サービスエリアでミコトが固まって絶句している。後から降りて来た凍夜が、異変に気づいた。 「ミコト、どうした?」 ミコトの見つめるその先に、中年の男がいた。 その後ろから中年の女。  ミコトに似た面差しの女に、凍夜はすぐに気付いた。母親だ。ミコトの母親。 「ミコトちゃん、ミコトちゃんよね。」 駆け寄って来た。  その横から男が割り込んでミコトをハグしようとした。  すかさず、凍夜がミコトを抱いて離れた。 「何ですか?あなた達は? 俺のツレに何か用ですか?」 「私は父親だよ。キミこそ何者だね? 私の息子に何の用だ?」  後ずさりしながら、凍夜の手を握りしめたミコトの様子に、ここで話をつけてやろうか?と考えたが。 「ミコトには、捜索願いを出そうか、と思っていたんだ。  随分、連絡も寄越さず,心配していたのだよ。」 「オレはもう23才だ。キチンと家を出たんだ。 捜索される筋合いは無い。」  ミコトの声は震えていた。 「居どころくらい知らせなさい。 お母さんも心配していたんだよ。」  ミコトは母の方を見て、 「お母さん、オレがされた事、知ってたんでしょ。だったらオレが帰らない理由もわかるよね。」 「そういう事ですから、失礼します。」  凍夜はミコトの手を引いて、車に向かった。 男が叫ぶ。 「君、誘拐罪で訴えてもいいんだよ。 覚悟したまえ。」 「ああ、望む所だ!警察に言ってみろ!」

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