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第86話 偶然 2

 男は走り去る凍夜の派手な車を見逃さなかった。 「ランボルギーニのようだな。 私も憧れた車だ。日本で走っているのは、そんなに多く無いはずだ。すぐに見つけるさ。」 「あなた、もうミコトの事は自由にしてあげて。」  バシッ!男はミコトの母を張り倒した。彼女は唇を切って、血が流れている。  母親はこの男を愛しているのか?  一方で凍夜は不安を払拭出来ない。 「大丈夫か? あいつが、義理とはいえ、父親なんだな。」 「どうしょう、見つかった。 あの男はしつこいんだ。  この車、珍しいからきっとすぐに見つけられるよ。ごめんね、凍夜を巻きこんで!」 「ミコトは俺の嫁だろ。 嫁を守れなくてどうする。 大丈夫。俺に考えがある。」  もう温泉に行く気は無くなってしまった。 「キースのところに行くよ。車を預ける。 このまま、真っ直ぐ帰ったら、あの男にマンションまで嗅ぎつけられそうだから、車を乗り換える。もうちょっと地味な奴にしよう。」  キースに事情を話して車を預けた。 代わりにレンジローバーイヴォークを借りた。  足回りがいいから、田舎の山道でも逃げ切れる、とキースが言う。 「山を逃げ回る前提? どんなカーチェイスを期待してるんだよ。」 「レンジローバー、いい車だよ。 イギリスもいい車作ってるんだよ。  この車、2トンもあるんだぜ。 轢かれたら死ぬなぁ、確実に。」 「怖い事言うなよ。 俺に轢き殺せ、とでも?」 「言ってない、言ってない。 イヴォークの豆知識だよ。気を付けて帰れよ。  俺も弁護士に相談しておくから。」 手を振るキースに、ミコトも手を振って帰って来た。 「キースに話したら、何も問題無いような気がしてきた。さすが、凍夜の親友だね。」 「だろ? 長い付き合いだからな。  今日はアヤがついたな。 ばんやで飯食って帰ろう。」

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