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第88話 粘着質

 男がバスルームに消えてから、裸のままで放置された母が、泣きながらミコトのそばに来る。  抱きしめてくれた。母の股間には血が流れている。乱暴な振る舞いに出血したのだろう。 「お母さん。」 「ミコト、ごめんね。ミコトは大丈夫?」 「うん、オレの部屋に来る? 鍵かけよう。」 「大丈夫。もうこの後は乱暴しないと思う。 ミコトはお部屋に行って。鍵もかけて。」 「お母さんは?」 「大丈夫。ミコトが無事なら大丈夫。」 「お母さんはあんな奴、好きなの?」  男のイタズラは段々、母よりミコトに向かって来た。 小学校も高学年になると、男のやっている事の意味がわかるようになる。  遂に無理矢理、精通させられた。年頃だから,強烈な快感を伴って初めての射精をした。  気持ちよさとおぞましさ。 気持ちいいと感じる自分に嫌悪感が拭えない。  男は段々図々しくなって、イタズラも大胆になった。しかし、セックスそのものを強要しない。 証拠を残さない。  我慢して、中学を卒業し、高校を卒業し、引きこもりながら家を出る準備をした。  男はミコトの事を、大学浪人中と、周りには言っていた。どこまでも見栄っ張り。家の中では異常な地獄が毎日のように繰り広げられていても、外の他人には見えない。男の狡猾さ。  平和で幸せな家庭は、いとも簡単に演出された。みんなが騙されている。  母を連れて家を出たかったが、何故か母は男と別れない。  話し合って、母はクレジットカードをくれた。 「ミコトの口座に紐づいているカードだから持って行きなさい。」 キャッシュカードと通帳、印鑑もくれた。口座の名義はミコトになっていた。 「あの人しつこいから、見つからないように、人の多い東京へ行きなさい。都会に。」 「母さんは逃げないの?」 「大丈夫、私は大丈夫。」

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