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第89話 男の正体
凍夜は怒りを隠せない。キースに調べてもらった。日本で大きなビジネスを展開しているキースの父の会社には、独自の調査機関がある。
ミコトの義理の父の会社もそれなりに名の通った企業で、彼は北関東のある都市の支社長になっていた。
調査は割と簡単だった。一言で言えば、とんでもないパワハラ男だった。部下の評判は最悪だ。
なぜ、馘首にならないのか?
その狡猾さには恐ろしいものがあった。彼の下で働いて、メンタルをやられた社員も多いらしい。
少し前まで、精神的な疾患の診断は、上司の一存で握りつぶせる、そんな時代だった。身体的な目に見えるケガや病気は、見ないフリは出来ないが、精神的なものは、気のせい、とか怠けている、とかで有耶無耶にされる事が、ありがちだった。
強権的な上司の元では、言い出しにくく、益々病は悪化する。そんな悪循環があった。
報告書に印鑑を押すのもこの男の仕事だ、という矛盾がまかり通っていた。
自殺しても労災認定せず、勤務時間外、という事で処理された。泣き寝入りしている遺族も多い。個人では立件は難しく、警察は、民事不介入の態度を崩さない。
日本はまだまだ個人より、企業の発言力が大きい。そんな現実だ。
ミコトの父は自殺も疑われたが、何しろ証拠がない。動機もない。ただ鬱とだけ判断されたようだ。遺体が見つかったわけでも無い。
ただの家出、と言う扱い。
警察も、家出人のあまりの多さに、親身に探してはくれない。
「こんな事がまかり通ってるなんて。」
「年間の行方不明者は、日本全国では2万人とも言われているよ。明確な希死念慮があっても、全部を助けるのは無理なんだろう。」
キースがいつになく真面目な表情で言った。
「うん、お母さんが再婚してからは、ホントの父さんを探そうって言う人がいなくなった。
父さんはどこかで生きているって、口に出しちゃいけないのか?と遠慮してた。」
ミコトは悲しそうに言った。
凍夜が抱きしめて
「探そうぜ。きっとホントのお父さんはミコトに会いたいはずだ。」
「ああ、見つかるかもしれない。
調査報告書を見てそう思ったよ。
ミコト、俺たちがついてるよ!」
「キース、俺って言うんだ?
オトナは、僕、だろ。」
「あ、外では僕って上品に言わなくちゃ。
俺、じゃ中坊だ。」
「悪かったな。」
「凍夜は、俺でいいよ。僕って似合わない。」
「おまえもな。オレっていうのが可愛いぞ。」
「はい、そこ!イチャイチャしない!」
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