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第90話 男の正体 2

 あの男へ、正式に裁判所から調停の呼び出しを要請する事になった。  その前に一つ気になるのは、ミコトの母の事だった。  男のいない時間に,待ち合わせする。茨城のまあまあ大きい駅の前。今風のカフェで待ち合わせた。母はやつれて年より老けて見えた。 「母さん疲れた顔。美人が台無しだよ。」 「ミコトったら。 この前サービスエリアであなた達を見かけてから、お義父さんは凄く荒れて、ね。」  母の頬に痣があった。 「殴られたの?」 「この頃、暴力が酷いの。 前は優しかったのに。」 「本性が出たんだよ。 あの男は優しくなんかないよ。  母さん、別れなよ。 あの男を愛しているの?」 「だって私、何も出来ないし・・ 家事しか出来ないのは知っているでしょ。」 「本当に別れたいのなら、手伝うよ。 それから、オレ本当の父さんを探す。 もしも亡くなっていたら、手厚く弔いたいし。」 「そうね、実はもう何年も前から別れたかった。 ミコトに閨(ねや)を見られてから、 何年も何年も、地獄の思いだった。」 「ごめん、オレ母さんを捨てて一人で逃げたんだね。」  ミコトが泣き出した。 「違うわよ。ミコトちゃん、あなただけは助けてあげたかった。遅かったね。  あなたが苦い麦を無理矢理飲まされた事、知ってたのに。口移しでビール飲まされて、ゲーゲー吐いてたのに助けられなかった。 気味が悪い事をするのよ,あの男。」 (なんだ、あの気持ち悪い事はバレてたんだ。 最初から秘密でもなんでもなかったんだ。  ずっとオレのトラウマになってた。) 「助けてあげられなかったのは私だわ。 ごめんなさい。女も自立しなきゃダメなのに。 あんな男に引っかかって。」  母は少し安堵したようだ。 「これからの生活を考えよう。」

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