93 / 101

第93話 別の小屋

 その話を聞いて凍夜とミコトは山に行く事にした。 「山に行くなら、車これで正解だったね。 レンジローバーイヴォーク。 途中まで車で行ける。 キース、先見の明がある。」  麓の宿に車を預けて、後は歩いて行った。 険しい登山と、ハイキングコースよりは少し厳しい山登り、の中間くらいに、四度小屋はある。  その先は本格的な登山コースだ。素晴らしい景色と露天の温泉がある山小屋だ。三度来ても、また四度目も来たくなる、そんな山小屋だ。  小屋のおやじに 「昔、オレの父さんがここに来たって聞いたんで、後をたどって来ました。  父さんは何を思ってここに来たのか? 気持ちが少しでも判れば、と思って。」 無理かもしれないが一応聞いてみる。  雄大な山の景色に圧倒されて、凍夜は言葉が出ない。ミコトの手を握って、今ここに二人でいることのしあわせを噛み締める。  四度小屋で昔の事を聞いてみた。 「遭難とか、滑落とかで亡くなった人は多いんですか?」 「おまえ縁起でもないこと聞くなよ。」  小屋にいた山男に叱られた。それでもその人は親切で、何か思い出したようだ。 「この上の、もう少し登った所にも小屋掛けがしてあるよ。小さい小屋をかけて、住み着いた人がいる。もう15年近くなるかなぁ。」 「その人だったら、何か知ってるかも! 明日朝早く行ってみよう。」  凍夜とミコトは露天の温泉に入って、抱き合った。 「誰もいないよ。 今はシーズンオフだから。 ミコト、キスしよう。」 「キスだけ?」 「ダメだよ。今夜はちゃんと寝ないと。」  翌朝、簡単な朝食、栄養クッキーとゼリー飲料で済ませて山に登った。  そんなに険しい山ではないが、目指すところは、みんなの通る道から外れている。  道なき道を行き、やっとの思いで小さな山小屋にたどり着いた。四度小屋より、頼りない、今にも崩れそうな小屋だ。

ともだちにシェアしよう!