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第93話 別の小屋
その話を聞いて凍夜とミコトは山に行く事にした。
「山に行くなら、車これで正解だったね。
レンジローバーイヴォーク。
途中まで車で行ける。
キース、先見の明がある。」
麓の宿に車を預けて、後は歩いて行った。
険しい登山と、ハイキングコースよりは少し厳しい山登り、の中間くらいに、四度小屋はある。
その先は本格的な登山コースだ。素晴らしい景色と露天の温泉がある山小屋だ。三度来ても、また四度目も来たくなる、そんな山小屋だ。
小屋のおやじに
「昔、オレの父さんがここに来たって聞いたんで、後をたどって来ました。
父さんは何を思ってここに来たのか?
気持ちが少しでも判れば、と思って。」
無理かもしれないが一応聞いてみる。
雄大な山の景色に圧倒されて、凍夜は言葉が出ない。ミコトの手を握って、今ここに二人でいることのしあわせを噛み締める。
四度小屋で昔の事を聞いてみた。
「遭難とか、滑落とかで亡くなった人は多いんですか?」
「おまえ縁起でもないこと聞くなよ。」
小屋にいた山男に叱られた。それでもその人は親切で、何か思い出したようだ。
「この上の、もう少し登った所にも小屋掛けがしてあるよ。小さい小屋をかけて、住み着いた人がいる。もう15年近くなるかなぁ。」
「その人だったら、何か知ってるかも!
明日朝早く行ってみよう。」
凍夜とミコトは露天の温泉に入って、抱き合った。
「誰もいないよ。
今はシーズンオフだから。
ミコト、キスしよう。」
「キスだけ?」
「ダメだよ。今夜はちゃんと寝ないと。」
翌朝、簡単な朝食、栄養クッキーとゼリー飲料で済ませて山に登った。
そんなに険しい山ではないが、目指すところは、みんなの通る道から外れている。
道なき道を行き、やっとの思いで小さな山小屋にたどり着いた。四度小屋より、頼りない、今にも崩れそうな小屋だ。
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