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第95話 違和感
警察が簡単な検死をして、行旅死亡人となったという。
「本当に個人情報になるものを何一つ持ってなかった。一つだけ、可愛いハンカチにひらがなで
[りゅうおくみこと]と書いたものがあった。
警察は事件性が無ければそこまで熱心に調べない。これは名前なのか、何かのまじないなのか、みんな不思議がってたよ。」
何か、神社の神様か?りゅうおくのみこと、を祀っているところがあるのか?警察も頭を傾げていた。
しばらくこの辺りの人々の話題になったが、特に騒ぎもなく忘れられていったようだ。
「どうする?
今更蒸し返してもいいものか?」
ミコトも凍夜もなんだかスッキリしない。
モヤっとした印象をお互いに待っていた。
「やっぱり、俺あの男が怪しいと思う。」
「凍夜も感じたんだ。
何か、用意してあったストーリーを暗記してるような話し方だった。」
「そう、スラスラと、用意してあったみたいに答えたのが違和感。」
貰って来たお茶も怪しい。成分を分析してもらおう、と意見が合った。
四度小屋に挨拶をして山を降りた。
最初に話を聞いた温泉宿に泊まる事にした。
「取り敢えず、今夜は温泉に入って明日帰ろう。
キースの報告もあるだろうし。」
「温泉いいね。」
麓の宿の温泉は、地元の人も利用する共同浴場だった。銭湯みたいに小銭を払って、誰でも入れる。中は混浴だった。
でも、誰もいない時間帯か、ミコトと凍夜の貸し切りだった。
二人はタップリのお湯に浸かった。
「気持ちいいね。ちょっとぬるい感じ。いつまでも入っていられる。」
手足を伸ばしてノビノビお湯に浸かるのは最高だ。
「おいで・・お父さん、残念だったね。」
優しく頭を撫でられて、すっぽり抱かれて甘える。
「ミコトはお父さんが亡くなってたら、悲しいよな。温泉気持ちいい、なんて俺、脳天気だな。
ごめんよ。」
優しく身体を触りながら、時々抱きしめてキスしてくれる。
「凍夜がいてくれるから、そんなに悲しくないよ。ある程度覚悟してたし。」
耳元で囁く凍夜の声を聞いて、安心する。
「でも、オレの勝手な想像だけど、
あのおっさんが父さんを殺したんじゃないか?って思った。」
ミコトの言葉に,二人は顔を見合わせた。
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