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第98話 母親たち

 凍夜の母とミコトの母は、話が弾んでいる。 「凄いわ。早苗さんなんでも出来るのね。」 「なんでもなんて。ただ、家の中の事をやってきただけですわ。」 「今度、一緒にやりましょう。 お料理とか、手芸とか、教えて欲しいわ。」 「私は当たり前の家事しか出来ませんわ。 お恥ずかしい。」 「ごめんなさい、私は当たり前の家事も出来ないの。これから練習するから先生になって。」  ハウスキーピングのベテランだ、と褒める凍夜の母に、早苗は気恥ずかしいが悪い気はしない。 「さなえと呼んでください。」 ミコトの母の言葉に、凍夜の母は、一瞬躊躇した。 「私の名前は、山川海。うみ、って呼んでね。 フルネームだとふざけた名前でしょ。」 「そんな事ない、綺麗な名前。 うみちゃん。」 「そう、さなえちゃん。 この年になって親友が出来るなんて素敵ね。」 「親友と言って下さるんですね。 嬉しいわ。」 「あなた、ここに住んでしまいなさいよ。 差し支えなかったら、是非お願い。  そして私に家事を教えて欲しい。」 「ありがとう、うみちゃん。」  そばで聞いていた凍夜が 「それはいい考えだ。俺たちも安心だし。 家政婦と言うわけでは無いよ。  それならもういるしね。長年来てもらってるばあちゃんたちが。  なんか役職を決めたら。 ミコトの母さんが、堂々としていられる役職。  秘書、とか、どう? スケジュールを管理する。 二人の遊びを色々考える人、とか。」 「それ、良いわね。さなえちゃんはわたしの秘書。どうかしら。やってくれる? そうしたら、お給料を払えるわ。」 「そんな、秘書なんて私に出来るかしら。」 尻込みする早苗に 「私を管理する仕事よ。楽しいわ。 引き受けてちょうだい。」 海の熱心な言葉に、早苗はうなづくしかなかった。 「じゃあ、ここに引越しよ。 凍夜、準備して。」  ミコトの母、早苗は凍夜の母の家で暮らす事になった。部屋はたくさんある。  番頭の斉藤が、地道に家を守って来た。 家のメンテナンスのための若い衆が数人、いつも働いている。庭師も一家で住んでいる。  セキュリティは万全な家だ。今後あの義父がなにか仕掛けて来ても大丈夫だ。  只今求職中の凍夜とミコトは、母の心配から解放されて嬉しかった。

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