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第100話 方向転換

 キースにランボルギーニを預けたまま、引き続きイヴォークに乗る事にした。  家にはガヤルドがあるから、ウラカンはキースに面倒見てもらう。  凍夜は以前から受けていたボイストレーニングを再開した。  踊るのも好きだ。体を動かすのが。 自分の身体が、どこも全て、思い通りに動くのがいい。  そしてミコトを抱く。全身全霊をこめて愛するのはミコトだけ。  凍夜は、自分が不思議だ。こんな気持ちは初めてだ。初心(うぶ)なガキみたいに、いつもミコトが頭から離れない。 「バンドやろうぜ!」 全てはこの言葉から始まった。  どうせベタなおっさんバンドが、今更な音楽をやるんだろ、って言う評価が目に浮かぶ。  今更「バンドやろうぜ!」だと? 30年前の流行りだよ。バンドなんて腐るほどある。そして意外と最近の若者はレベルが高い。  いい楽器を持ってるし、みんな中々洗練されている。    キースの車屋のスタッフが楽器できるって言ってるらしい。 「一緒にやりますか?」 「音楽の方向性が違いそうだな。」 「俺が好きなのは70年代のロックだぜ。」    キースはずっとドラムを叩いていた。一人で篭って人知れずドラムを叩く。  キースのマンションは完全防音になっていて ちょっとしたスタジオだった。 「六本木でこんな贅沢な部屋を持ってるなんて、キースはスゲェな。」 「僕は、思い切りドラムが叩ける部屋を ファティ(父親)に作ってもらったんだよ。  それを条件に仕事を手伝ってる。」  ランボルギーニのショールームのスタッフの一人、高良(タカヨシ)君が声をあげた。 「一緒にやりたいっス。 キースのビジュアルならフェスでも目立つし。」 「フェスって、おまえ、な。」 気が早い。 「俺、知ってるんですよ、キースがドラムやってるの。」  メンバーは、凍夜がボーカル、キースがドラム、ギターの高良君の友達のベースマン、鉄(テツ)が一緒にやると言っている。  キースのマンションに集まる事になった。  広いワンルームにラディックのシルヴァー・スパークル、神々しいドラムセットが鎮座していた。今ではクラシックなドラムセットだ。  キースの愛してやまないあのロジャー・テーラーモデル。 「すげぇ! 音出しても大丈夫なんスね。」  タカヨシとテツが感激している。

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