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第101話 方向転換 2
毎朝、目覚めると軽いランニングをするためにマンションの外に出る。
激しい運動ではない。軽く走ったあとは、マンション内のジムで軽いワークアウト。
ずっとホストで昼夜逆転の不健康な習慣がついたのを、少しずつ解して行く。
ミコトも時々は付き合う。運動は得意ではない。部屋で音楽を流す。凍夜はどんなジャンルでも、音楽が好きだ。身体が動き出す。
今まで、封印していた音楽のある生活をミコトが取り戻してくれた。
そして二人でゆっくり朝食をとる。ストイックな生活。
「オレ、音楽は、聞くもの、だったけど、凍夜たちは、演るもの、なんだね。
オレに出来ることってなんだろう?」
「ミコト、可愛い。」
頭を撫でてくれる。
ミコトのノートパソコン。家を出るときも、離さず持ってきた。
たった一つのミコトの財産?
「いつも、大切そうに抱えてるけど、何が入ってるんだ?」
「うん、日記とか。あ、毎日書いてるわけじゃないよ。」
少しだけ凍夜に見せた。凍夜の目が光った。
「ミコトって作詞とか出来るね。
書いてみなよ。凄く言葉が刺さる!」
いつも、つらい時、書き殴っていたノートを整理してパソコンに保存していた。
そんなモノは
誰にも見せられない。心の逃げ場、のようなもの。
あの華やかなホストの世界で、夢のように恋をした。そんな思いも綴られている。
「泣き虫なミコト。俺はずっとそばにいるよ。」
抱きしめてくれる凍夜の手。
(人生って、どこでどう変わるかわからない。
何が幸せか?
愛し合ったら、また不安が顔を出す。
それでも、人を好きになるのは素晴らしい事?)
答えなんか出ない。でも手を伸ばせば凍夜がいる。
(とりあえず、これでいいかな、父さん?)
苦い麦 ホスト編 終わり
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