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第17話

「ラスティ!」  よく通る声が己の名前を呼び、ドキリとした。  待ち合わせ場所にはすでに久秀が到着しており、松葉杖を持っているということ以外は、いつも通りの気さくな笑顔を浮かべてみた。 「遅くなってすみません」 「別に遅くないって。まだ約束の十五分前だぜ」  確かに久秀の言うとおりに、時計は約束をしている時間より十五分前を指していた。  それでも、ケガ人を待たせてしまっていたことに、申し訳なさを感じてしまう。  それをそのまま伝えると、久秀は声をたてて笑った。 「ほんとお前って相変わらずだなぁ。別にずっと立ってたわけじゃないよ」  言いながら傍にあるベンチを指す。 「それに今さっき来たところだしな」 「そういうとこ、久秀さんも相変わらずやな」 「はは、まぁお約束ってことで」  そうして二人で笑い合ってから、久秀のエスコートで歩を進める。 「映画でも見るか。確かあのバディもののやつ公開されてただろ」 「ああ、刑事ドラマのやつやっけ。オレ見たことないねんなぁ」 「あの名作を見たことがないなんて、お前人生損してるぜ」  久秀は歩きながら、いかにその作品が素晴らしいかを語る。主演の二人は、ラスティもよくテレビで見たことがある男性俳優だ。長身の優しげな顔立ちの男と、小柄でどこか近寄りがたい雰囲気の男がおりなす破天荒な刑事ドラマの劇場版である。  久秀はこのシリーズが好きで、テレビドラマやこれまでに公開された映画も全て見てきたのだ。  今作では、刑事を辞めた二人はなぜか、今はタクシードライバーをしているらしい。なにがどうしてそうなったのかは、前作を見れば分かる、とのことだった。 「……そんなやつをオレが見て楽しめるんかな」 「楽しめるって。あの作品はちゃんとそういう人向けにあらすじの説明があるから」  映画館に着くと、久秀はパンフレットを二冊買った。曰く一冊は保存用なのだという。そういえば、久秀の家の本棚には、たくさんの映画や舞台のパンフレットが入っていたことをラスティは思い出した。  そしてパンフレットと一緒に、ドリンクとポップコーンを購入する。  館内に入って、指定された席に座ると、久秀はやれやれとため息をついた。 「まだちょっと疲れるな」 「車いす借りたらよかったのに……」 「本当に使いたい人が使えないと困るから、それにはおよばないよ」  左足をさすりながら、久秀はそう笑いながら言う。『本当に使いたい人』は、まさしく久秀のことではないのかと思ったが、杖があれば歩けるからだとか、リハビリだからだとか理由を述べて、首を縦には振らないだろう。  ラスティができることと言ったら、買った二人分のドリンクとポップコーンを持つことぐらいだ。 「久秀さんのそれって、ボルトとか入ってんの?」 「いや。入ってないね。なんかギプスとか添え木してりゃ大丈夫らしい。なにせあまりそこんとこ記憶になくてね、覚えてないんだ」  意識が戻ってから医師からいろいろ説明は受けたが、自分の状況を呑み込むことに精一杯でよく覚えていないらしい。頭を打ったせいなのか、その直後はどうにも記憶が抜けるといったことがあったそうで、そうした説明は全て家族に聞いてもらっていたという。 「でも、俺はこうして無事退院できたし、お前とデートできてるからどうでもいいんだけどな」  ラスティがまた憂鬱にならないように、久秀さんはそう言って、左手でそっと手を握ってくる。 「ほら、手もちゃんとつなげる」 「タラシめ、久秀さんのあほ」  ぷいっとそっぽを向くラスティは、耳まで真っ赤になっていた。  映画が上映されると、繋いでいた手を放し、久秀は興味深そうにそれを見ている。  内容はコメディ要素もありつつ、主人公二人の息の合ったやり取りが気持ちいい。  大御所の俳優ということもあり、芝居やわずかなしぐさからも学ぶことは多かった。  そして、物語はだんだん盛り上がっていく。  犯人を捉えようと、主人公二人は廃墟に侵入する。犯人が潜んでいるとの情報だったが、それは罠であった。  二人で階段を上っていく途中で、銃撃に合う。それにいち早く気付いた長身の男が小柄な男を庇い、そこから落下するのだ。  ヒュッとラスティは息を呑む。心臓が痛くなり、嫌な汗がにじんでくるのがわかった。呼吸が乱れて、目の前がチカチカする。 (イヤや……)  体の震えが止まらない。嫌でも『あの時』のことを思い出す。吐き気が襲ってくる。  そんなラスティの様子に気付いたのか、久秀はまたそっと手を繋いできた。 「大丈夫だから」  耳元で優しい声が囁いてくる。久秀の声だ。 「大丈夫。俺はここにいるよ」 「うん」 「外出るか?」 「ううん。いい」  ゆるゆると首を振る。久秀の体温と声で、ラスティのフラッシュバックにも似た症状が治まる。 「ラスティ、ごめんなさいって言ったら怒るからな」 「うん……ごめ……おおきに」 「よくできました」  右手でポンポンと頭を撫でられ、ラスティはグスッと鼻を啜った。  スクリーンでは小柄な男が犯人と対峙している。お前のせいだと責めてくる犯人を、小柄な男は余裕のある笑みを返すだけだ。  そのとき、犯人を後ろから羽交い絞めにする影がある。長身の男である。大けがを負ったと思われた彼は、たまたまそこに乱雑に積まれていたタイヤの上に落ちて、奇跡的にかすり傷で済んでいたのだ。  主人公たちの活躍によって見事、犯人は逮捕される。また刑事をやらないのかと、いう昔の同僚たちに主人公たちは「気が向いたらね」と笑って去っていったのだった。  館内が明るくなると、久秀は苦笑いを浮かべてラスティの頭を撫でる。 「お前ね、泣きすぎ」 「だってぇ。あの人、無事やったもん。よかったぁ」 「そりゃあね。前々作で大爆発から生還した男なんだぜ。あれぐらいで死ぬかよ」  端正な顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにするラスティに、久秀はハンドタオルを差し出す。それをありがたく受け取って、遠慮なく顔を拭くラスティに久秀はため息をついた。 「ほーら、色男。顔洗ってこい」 「うえぇん、すみませーん!」 「わかったから。ほら、行け」  館内からロビーに移動し、久秀はラスティの背中を押す。ラスティはまだ顔をぐじゅぐじゅさせながら、トイレに入っていった。  それを見送って、久秀はロビーにあるソファに座る。無意識に左足をさすって、フッと苦笑した。  綺麗に折れたらしく、骨折の後遺症はリハビリをちゃんとすれば残らないらしい。ベッドのなかでいたので多少筋力は落ちたが、体を鍛えていたおかげで、リハビリも苦労することはなかった。  それでも考えてしまう。もし、これまでのように動くことができなくなったら、自分の役者生命は終わったも同然だろう。  久秀は首を振ってそんな考えを払う。別に骨折も初めてではないのだ。なので、気にすることはない。ラスティのためにも、自分は笑っていなければならない。  そんな使命感にも似た気持ちを、久秀は心に抱いた。 「久秀さん、お待たせしました!」  顔を洗ってさっぱりしたラスティが戻ってくる。目を赤く腫らしたその姿に、久秀は思わず吹いてしまった。 「お前さぁ、ほんと。面白いやつだなぁ」 「なんやの、それ」 「おこちゃまだなってこと」 「誰がおこちゃまやねん!」  ムッとするその様子が余計に面白く、久秀はゲラゲラと笑った。 「さ、スイートオレンジ。泣いて腹減っただろ。飯でも食おう」 「絶対、からかってるやろ。久秀さんのあほ」  ツンとそっぽを向いたラスティの肩に腕をまわして、久秀は歩を促す。こうなってはお人よしのラスティは、ケガ人である久秀を振り払うことなんてできない。ふてくされた顔のまま、久秀に従うしかないのだ。  それから二人はレストラン街でうどんを食べた。そして、服やアクセサリーを購入して、いつかできなかった『デート』を思う存分楽しんだのだった。 「はい、いらっしゃい」 「おじゃまします」  デートが終わると、それが当たり前のことかのようにラスティは久秀の家にやってくる。久秀はラスティを家まで送る、と申し出たのだが、ケガ人にそこまでの移動はさせられないと突っぱねたので、こうして彼の家までやってきたのだ。 「泊まってくだろ。風呂の用意するから、適当にくつろいでて」 「オレがやるって」 「ばぁか、お客様にそんなことさせられるかよ。いいから、いい子で待ってなさい」  ぽふぽふと頭を撫でられ、ラスティは素直に頷く。  リビングのソファに腰を下ろして、ふうっと一息ついた。  付き合う前、あの映画を二人で見た時、このソファで久秀にキスされた。 『俺、お前のこと好きだわ。付き合ってくれない?』  そう久秀に言われた。あれはきっと本気だっただろう。  キスしようと提案されて、それを受け入れた自分。あれもきっと、久秀のことを心の奥底では好きだったから抵抗をしなかった。  キスから先のことも想像してしまった。好きだから、そう思ってしまった。  あの時の気持ちを素直に自分の感情として認めていれば、今とはまた違ったことになっていたのだろうか。あのままキスされて抱かれて彼の愛をその身に注がれる。  コロンとソファに寝転んで、ううんと背伸びをする。  ソファからは久秀のタバコのにおいと香水の匂いがする。ローテーブルの上には、彼の好きなネコのキャラクターの灰皿が合って、久秀の存在を強く感じる。  ラスティは久秀と恋人同士になってすぐ、親友であり恋愛の先輩でもある一稀靖に『事前準備』のやり方を教えてもらった。  それはなかなか恥ずかしく、抵抗のあることだったけれど、久秀を受け入れるためにはそうするしかない。  だから、あえて昼食にうどんをセレクトした。消化の早い食べ物で排出される量を減らすためだ。  どちらにせよ、初回で挿入は難しい。最初はほぐすだけのほうがいいのでは、と靖は言っていた。排泄器官であるアナルは、女性器とは違い濡れることはない。挿入するようにできていないのだから、時間をかけるほうがいいのだとも言っていた。  男性同士のセックスの知識がアダルトな動画でしかないラスティは、経験豊富な久秀に任せるしかないのだ。  そこまで思い、ラスティは少しだけモヤっとする。久秀は男性と女性の両方とのお付き合いの経験がある。当然、そういう行為もしてきた。きっと男性とのセックスも慣れている。  彼は根っからのタチらしいので、自分のような初心者ともきっと経験があるのだろう。  そう考えてしまうと、胸の奥がモヤモヤして、嫌な気持ちになる。 (オレが初めての相手、やないんやな)  ソファの上に転がっているネコのキャラクターのぬいぐるみを胸に抱いて目を閉じる。 (オレの初めては久秀さんやのに)  不公平だと感じた。それがワガママだということ分かっている。好きだと自覚するまでは抱かなかった感情だ。  それをひっくるめても、自分は久秀のことが好きなのだと、思い知ることになった。 「ラスティ」  そう呼びかけられてラスティは目を開ける。そこには髪を濡らした久秀が困ったように笑っていた。 「おはよう」 「……おはよ」  どうやら待っているあいだに眠ってしまっていたようだ。 「ごめん、寝とった」 「いいよ。俺も待たせちゃったからな。どうする? このまま寝るか?」 「んーん、お風呂入る」  目をこすりながら起き上がり、大きなあくびを一つ。  そんなラスティの姿を見て、久秀は「子どもみたいだな」と笑った。 「着替え置いてるから、好きに使ってくれていいよ」 「ん」  短く答えてラスティはバスルームへ向かう。  脱衣所の洗濯機の上にはバスタオルと寝巻用のスウェットパンツとTシャツが置いてある。  まだぼんやりとした頭のまま、シャワーを浴びた。髪を洗ってから事前準備をどうするか迷ってしまう。  朝、家でやってきたがもう一度したほうがいいのだろうか。  幸いなことにバスルームの隣にトイレがある。そして、リビングと廊下には扉で隔てられているから、見られることはないだろう。  ラスティはしばらく悩んでから、こっそりバスルームを抜け出しトイレに入った。そして、またバスルームに戻り、その事前準備を行う。  練習で何度かしたことはあるが、やはり慣れない。あまりやりすぎるのもよくないそうなので、ある程度にとどめておくことにした。  丹念に体を洗って、湯船にゆっくり浸かり、久秀が用意してくれた寝巻を身につける。  リビングに戻ると、ソファの上に布団が用意されていて、そこで久秀が美味そうにタバコを吸っていた。 「おう、ラスティ」 「あ……うん」  バニラの香りが漂ってくる。なんとなく緊張してしまい、その場に立ち尽くしていると、久秀は不思議そうに首を傾げた。 「どうした。具合でも悪い?」 「いや、そうやなくて……」  久秀はポンポンと自分の隣に座るようにソファを叩く。促されるまま、彼の隣に腰を下ろして少しだけ距離を取った。 「なんだよ。別に俺はお前を取って食ったりはしないよ」  タバコの火を消して、距離を詰める。肩に腕をまわしてグッと引き寄せた。 「それとも、俺になにか隠し事?」  耳元で囁く。それだけでラスティは赤面して視線をうろうろと彷徨わせた。 「ずいぶんゆっくりお風呂入ってたみたいだし。なんかしてた?」 「それは、その……」  どう答えたらいいか分からずに、言葉に詰まってしまう。俯いてもじもじしていると、久秀が頬にキスをしてきた。 「もしかして、俺がいるのに一人でシテた?」 「は……ちがっ……!」  反論しようと顔を上げると、バチっと目が合ってしまう。久秀の瞳がにんまりと笑って、顔を近づけてきてそのままキスをされる。 「やっと俺の顔見てくれた。今日、あんまり目が合わないんだもん、嫌われたのかと思った」  ククッと笑って久秀は体を離す。  いつものように接していたつもりだったが、どうやらそうは思われなかったようだ。  付き合って初めてのデート。親友ではなくて、恋人としてどこかに出かけるという事実に、緊張していたのかもしれない。  久秀の口調から、咎めているわけではないことは分かる。  ラスティは迷いに迷って、思い切って口にすることにした。 「……準備してた」 「へぇ……なんの」  特に興味がないのか、久秀はもう一本タバコに火を付けて、煙を吐き出している。 「久秀さんと……エッチする、じゅんび……」 「へぇ……って、ゲッホ、ゲホ、なんだって?」  ラスティの言葉に久秀は思いっきりむせた。その反動でタバコが指からカーペットの上に落ちる。慌ててそれを拾い上げて、灰皿で消すと久秀は驚いたような顔でラスティを見た。  ラスティも意を決したというような顔で、久秀を見つめる。 「せやから、久秀さんとエッチする準備しとった」 「そ……そう、か」  二人して俯き、しんと沈黙が訪れる。カチカチと時計の秒針の音だけが鳴り響いている。  時間にして数秒だった思うが、とても長い時間のように感じた。最初に口を開いたのは久秀だった。 「準備、したんだな」 「……うん」 「……わかった」  久秀は静かに頷いて立ち上がると、ラスティの手を取る。 「ベッド行こうか」  久秀の言葉に、ラスティの心臓が跳ねた。カラカラに口が乾いて了承する声が上手く出てこなかった。  彼に導かれて、寝室へ向かう。  開けっ放しのクローゼットには彼の服がたくさんかかっている。レザージャケットやなにかのキャラクターがあしらわれたタンカースジャケット、デニムのボトムス。壁際にあるテーブルには香水の瓶が何本かあり、ガラス棚にはヴィンテージもののライターや、アニメのキャラクターのフィギュアが飾られている。  この部屋は久秀が普段、寝起きしている完全にプライベートな空間。  久秀の寝室を見るのは初めてではない。先日もここで口で慰めてもらったし、それより以前も何度も来たことがある。  その時は特に意識はしなかった。久秀らしい部屋だと思った。  しかし、今は違う。これから、この部屋で愛し合うのだ。  どこまでできるかは分からない。それは久秀も同じことを考えているのだろう。 「ちょっと待ってて」  ラスティをベッドの上に乗せて、久秀はチェストからなにかのボトルと小さな箱を引っ張り出して、ベッドの脇に置く。  それはコンドームと、どうやらローションのようだった。 「自分で後ろ慣らしたことはあるか?」 「……ない。怖いもん」 「オーケー、ハニー。じゃあ、優しくする」  久秀も同じようにベッドに上がって、ラスティと相対した。 「痛かったり怖くなったらすぐに言うんだぞ。俺との約束」 「うん」  小指を絡めて指切りげんまんをすると、久秀はそっとラスティを抱き寄せた。  抱きしめ合って互いの体温を確かめると、体を離してキスをする。  最初のキスは優しく、二度目からチュッチュッとバードキス。そして、舌で唇をつつかれてラスティは口を開いた。 「んぅ」  ゆっくりと舌先を触れ合わせながら、互いの唇の柔らかさを堪能する。  久秀の舌がラスティの舌に触れる。ぬるりとした感触に驚いて舌を引っ込めると、逃がさないとばかりに追いかけてくる。そのまま絡めとられてしまいそうになり、ラスティはギュッと目をつむった。 (なんか、変や……)  今まで感じたことのない感覚だった。キスってこんなに気持ちのいいものだっただろうか。  初めてのことにどうしていいか分からず、久秀の服の裾をぎゅっと握ると、彼の手が後頭部に添えられる。ぐっと力を入れられ、ラスティはバランスを崩す。 「あ……」  そのままベッドの上に押し倒されるような形になってしまい、ようやく唇が離される。二人の間に銀の糸が垂れてすぐに切れた。 (今の……舌入れるキスや)  ぼんやりとした頭でそんなことを思っていると、久秀の顔がまた近づいてきた。キスをされるかと思い目をつむる。しかし今度は違った。  首筋にそっと唇が触れて、くすぐったくて少しだけ肩が跳ねる。それをなだめるように髪を撫でられる。触れるか触れないかという絶妙なタッチに体がムズムズする。  そのまま久秀の唇は耳たぶを食み、首筋から鎖骨へと下がっていく。 「久秀さん……」  ラスティは困ってしまって彼を呼ぶ。このあと、自分がどうなってしまうのかが分からなくて、不安でしかたがない。  それが伝わったのか、久秀は一度顔を上げてクスッと笑うとまたキスを落とした。今度は頬に額に鼻に目元に。そして最後に唇へと落ちる。  優しいキスの雨を降らせながら、久秀はラスティのシャツの裾に手を差し入れる。腹から胸へゆっくりと撫で上げていくと、小さな突起に触れた。 「ひゃぁっ」  思わず変な声が出て、ラスティは慌てて口元を押さえる。しかし、久秀はそれを許さずに手をどけてしまった。 「我慢するなよ」  意地悪そうに笑ってそう言うと、指先で突起を転がし始める。その度にピリッと電気が走るような感覚がして、ラスティは体をよじった。 「や、そこ……なんか変……」 「大丈夫、すぐに慣れるさ。ほら」  そう言って今度は反対側の乳首に吸い付くと、舌で舐め上げた。 「ん……ぅ」  チュウっと吸い付かれる感覚に、思わず声が出てしまいそうになるのを必死で我慢する。  久秀の右手はラスティの体を撫で回し、左手は器用に彼のシャツを脱がせていく。  あっという間に上半身が裸になると、今度はズボンに手をかけられた。そのまま下着ごと一気に下ろされる。 「あ……」  下半身を露出させられて、ラスティは思わず足を閉じようとした。しかしそれは久秀によって阻止されてしまう。 「こら、足閉じるなよ」  そう言うと、久秀はラスティの膝裏に手をかけて押し広げるようにする。すると自然と股を開く形になってしまい、羞恥に顔が熱くなった。 「前も思ったけど、なんつーか、ハイジニーナってえろいな」 「や……そんな、見ないで」 「なにをいまさら」  久秀は笑いながらラスティのペニスに唇を寄せる。 「ふあ……」  パクリ、と先端を口に含まれると思わず腰が浮いてしまった。そのまま強く吸い上げられ、舌全体で舐め回される。 (だめ……)  今まで感じたことのない快感に頭が追いつかない。最初は違和感しかなかったはずなのに、徐々に思考が溶かされていくようだ。  久秀の口内でラスティのそれは完全に勃起していた。 「ふ……大きくなったな」  一度口を離すと、久秀は満足げに言ってラスティのものを指で撫でる。それはピクピクと震えており、今にもはちきれそうになっていた。  それを愛しそうに見つめると、今度は両手で包み込むように握る。そしてゆっくりと上下に擦り始めた。 「ひあ……あぁっ!」  今までとは比べ物にならないくらいの快感に腰が震える。 「どうだ、気持ちいいか?」  久秀はラスティの耳元で囁く。耳にかかる吐息すら感じてしまうほど敏感になっているようだ。  そのまま耳たぶを食まれ、舌先で愛撫されると全身が性感帯になったようにビクビクと痙攣する。 (知らない……こんな……)  必死にシーツを握りしめて快感に耐えるが、それでも声を抑えることができない。  そんな様子に気をよくしたのか、さらに激しく手を動かされた。  クチュリ、ヌチャという粘着質な音が室内に響き渡る。  その音さえもがラスティの興奮材料となり、どんどん限界へと追い詰められていった。 「ああっ……だめぇ……だめっ」  ラスティはかぶりを振りながら訴えるが、久秀の手は止まらない。むしろ激しさを増しているようにさえ思えた。 「いいぜ、イッても」  その言葉と共に先端を強く親指でグリッと擦られて、ラスティはあっけなく果ててしまった。ビュッ、ピュルルッと勢いよく吐き出されたそれは手だけでは受けきれず、シーツを汚してしまう。 「はぁ……ぁ……」  絶頂を迎えたラスティは肩で息をしてぼんやりと宙を見つめていた。久秀もまたその様子を見下ろしながら、手の平の白濁した液体をペロリと舐め取った。  その仕草を見た途端、ラスティの顔がカァっと赤くなる。 「な、なめ……!?」 「ああ。なんだ、恥ずかしいか?」  久秀はニヤリと笑って、ラスティの頬に軽くキスをした。 「だって……汚い」  ラスティがそう抗議すると、久秀はククッと笑って彼の頭をくしゃっと撫でた。 「お前は本当に可愛いなぁ」  そう言われてラスティはますます赤くなる。恥ずかしくてたまらなくなって、両手で顔を覆った。  久秀はラスティの足を開かせる。そして今度は彼の尻に手を伸ばした。 「あ……っ」  双丘を割り開き、その奥にある小さな窄まりに触れると、ラスティがピクリと反応する。  そこはまだ固く閉ざされており、異物を受け入れる準備ができていなかったようだ。 「久秀さん……」  不安そうに見上げるラスティに優しく微笑むと彼はベッド脇に置いていたローションを取り出した。それを手の平で温めてからそっと指を差し入れる。最初は一本だけだ。 「大丈夫、力抜いて」  久秀の言葉にラスティはコクリと頷いて深呼吸をする。それに合わせて久秀はゆっくりと指を押し進めていった。 「う……」  異物感に顔を顰めるが、それでもなんとか耐える。痛くはないものの、苦しさの方が勝っているようだった。 「まだちょっと早いか……」  久秀は指を抜いて、後孔を円を描くようにほぐしていく。 「あ……やだ、久秀さん……」 「大丈夫だから」  安心させるように頬にキスをしながら優しく声をかけ続けると、やがてラスティの方も慣れてきたのか少しずつ力が抜けていく。頃合いを見計らって再び指を侵入させると、今度はすんなりと受け入れてくれた。 「ん……ぅ」  ゆっくりと出し入れを繰り返しながら淵を広げていく。時折指を折り曲げて内壁を刺激すると、ラスティの口から甘い吐息が漏れた。 「ん……あぁ……」  段々と声に艶が出てきたところで、さらに奥を目指すように進んで行った。 「ひゃんっ!」  ある一点を掠めた時、ラスティの体が跳ね上がる。久秀はそこを重点的に攻め始めた。 「やっ、そこ……へんに……なる」  ラスティは戸惑ったような表情を浮かべて、久秀を見つめる。その瞳は涙で潤んでいた。  久秀はその目尻にキスをして、今度は二本目を挿入する。そしてバラバラと動かし始めたところで、ある一点を掠めた時にまたも彼の体がビクリと跳ねた。 「……ここ?」 「あ……やぁっ!」  その反応を見て久秀は同じ場所を攻め立てる。するとラスティのペニスが再び頭をもたげた。 「分かるか? このコリコリしたとこ。ここが前立腺」 「ぜんりつ……せん……?」  聞きなれない単語にラスティは首を傾げる。その様子を見て久秀はクスリと笑うと、また同じところをぐりっと押し潰した。 「ああぁっ!」  強烈な刺激に背中が反り返る。久秀は何度もそこを刺激し続けた。 「あ……ふぁ……」  その度にラスティの口からは嬌声が上がる。もう恥ずかしさも忘れてただひたすら快楽を貪っていた。  久秀が与える刺激に、頭が真っ白になるような感覚を覚えながら、ラスティは絶頂を迎えようとしていた。 「あ……だめ、また……イッちゃう」 「いいぜ、好きなだけイケよ」  そう言ってさらに強く擦り上げる。するとラスティの体が痙攣し、勢いよく射精した。その飛沫が腹の上に飛び散る。  久秀は満足そうに微笑むと指を抜いた。そして、自分の服を全て脱ぎ捨てると、ラスティの両足を抱え上げるようにして持ち上げた。 「あ……」  これから何をされるのか察して、ラスティはゴクリと喉を鳴らす。 「まぁ、まだ無理だと思うけど……試すだけ試してみようか」  己のペニスにコンドームを装着しながら久秀は言う。  そしてそれをラスティの後孔にあてがった。 「力抜いて」  久秀の言葉に、ラスティは素直に深呼吸をする。そのタイミングを見計らって、ゆっくりと腰を進めた。 「う……あ……」  指とは比べ物にならない圧迫感に、ラスティは顔をしかめた。久秀も苦しそうな表情を浮かべている。 「痛くないか?」 「ん……へい、き」 「無理はするなよ」  グッとさらに腰を進めて、半ばまで過ぎたところでラスティはうめき声をあげる。 「い、たい……」 「もう少しの辛抱だ」  久秀はラスティを宥めるようにキスをして、再び奥へと進める。なんとか根元まで入りきったところで動きを止め、お互いに大きく息を吐き出した。 「全部入ったぜ、分かるか?」  耳元で囁くと、ラスティは小さく頷く。その目には涙が滲んでいた。  久秀はその目尻に口付けて舐め取ると、ラスティの手を取り結合部へと導く。  そこに触れた瞬間ビクリと体が震えたが、それでもしっかりと自分の中に納まったものを確かめるように撫でた。 「久秀さん……の」 「ああ、そうだ」  ラスティは嬉しそうに微笑むと、久秀の首に手を回してきた。そのままどちらからというわけでもなく自然と唇が重なる。  最初は触れるだけの軽いキスだったが、次第にそれは深くなっていった。舌を絡ませ合い、お互いの唾液を交換する。  しばらくそうやって貪り合った後、久秀はゆっくりと動き出した。最初はゆっくりだった動きが段々と激しさを増していくにつれてラスティの口から漏れる声も大きくなっていく。 「んっ……ふぅ」  久秀が動くたびにビリビリとした快感が背筋を駆け上がり、ラスティの頭の中は真っ白になっていった。 「あっ、あぁ……」  ラスティの口から漏れる声はもう意味を成さないほどに甘く蕩けている。  そんな様子に気をよくして、さらに強く腰を打ち付けた。するとラスティの中もそれに応えるようにキュウッと締まるものだからたまらない。 (これは……まずいな)  久秀のなかに眠る加虐心が疼く。もっと、もっとこの愛する人をいじめたくて仕方がない。  しかし、久秀はその気持ちを抑えてラスティの額に自分のそれを重ねる。そして優しく髪をすいてから、ゆっくりと唇を合わせた。 「愛してる」  耳元で囁かれた言葉に、ラスティの瞳からポロリと涙が零れる。それは止まることなく次々に溢れてきた。 「オレも……愛してる」  ラスティは幸せそうに微笑むと、久秀の首筋に抱きついた。そして自分からもキスを仕掛ける。  久秀もそれに応えるようにラスティの舌を絡めとり、強く吸い上げた。お互いの唾液を交換し合い、貪るような激しい口づけを交わす。  その間も動きは止まることなく、むしろ激しさを増していった。 「はっ……あぁ、もぅ……」  ラスティの口から切羽詰まったような声が漏れる。それは限界が近いことを示していた。  久秀もまた同じく絶頂を迎えようとしていたのでラストスパートをかけるように抽挿のスピードを上げた。  パンッという肌を打つ音が部屋に響き渡ると同時にラスティが果てる。それと同時に久秀もまた熱を放ったのだった。 「んっ……」  ずるりと引き抜かれる感覚に小さく震える。久秀はそのままラスティの横に倒れ込んだ。二人分の荒い呼吸音だけが響く室内はどこか淫靡な雰囲気が漂っていた。  汗ばんだ肌が触れ合う感覚が心地よくて、ラスティは思わず笑みをこぼした。  その様子を見ていた久秀もまたフッと笑うとラスティの頰にキスをする。その優しい手つきはまるで子供をあやすようだったが、不思議と悪い気はしなかった。 「ありがとうラスティ。気持ちよかったよ」 「オレも……気持ちよかった」  ラスティは久秀の頰に手を伸ばすとそっと触れる。すると、その手を取られ、指先に口付けられた。 「愛してるよ、俺だけのスイートオレンジ」 「オレも……愛してます」  そう言って二人は再び唇を重ねた。それはとても幸せな時間で、ラスティはこの上なく幸せだった。 (ずっとこうしていられたらええのに)  そう思いながらラスティはゆっくりと瞼を閉じるのだった。

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