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1-6.

 ロキは多少文字が読めるし、慣れれば爺の仕事を引き継げなくはない気がしている。しかし、爺はロキに外界との繋がりを一切持たせてくれなかったため、いったい爺がどこで仕事を受けているのか、ロキは知らないのだ。爺は時々、ロキを置いて早朝から夜中近くまで出かけることがあったので、おそらくその間に移動できる距離でのやり取りのはずだが、それ以外はわからなかった。  「どうしたものか」と、ロキは深いため息をついた。 「ロキ……」  耳元で、穏やかで優しい声がした。いつも一緒にいるはずなのに、ひどく懐かしいような響きだ。 「じいちゃん? ……どうした? 戻ったの?」  ロキはシーツに手を置いて上体を起き上がらせた。爺は枕に頭を乗せたままだったが、目は開いている。 「ロキ」 「なぁに? じいちゃん、いるよ?」 「ご飯は……食べたのか?」  爺の言葉は少し虚ろで、でもその目ははっきりとロキを見ていた。 「うん、食べたよ」  ロキは微笑むと、またゆっくりと自分の体を横たえた。 「一緒に食べなきゃだめだ。食事は一緒にしないと」 「そうだね、じいちゃん……明日の朝も一緒に食べよう」  そう言いながら爺の肩に額を寄せた。ロキの髪を、シワだらけの手のひらが、辿々しく撫でている。 「ロキ……立ち行かなくなったら……」 「えっ?」  言葉が急に明確な意思を宿した気がして、ロキは頭を持ち上げた。爺の瞳に先ほどよりも力があった。それがまた真っ直ぐにロキを見ている。 「どうしても、ダメだったら、ウテナの占いを頼って」 「え? う、占い? ウテナ?」 「あーそう、占い……うん、占いの……占いババア」 「えっ、ちょ、じいちゃん何言ってんの? からかってる?」  ロキは半分笑いながら、爺に問い返した。爺はまるでここに留まることが辛いみたいに、浅く息をしている。遠のいていくような気がして、ロキは爺の肩に手をおいた。  その夜は風のない静かな夜だった。 だからなのか、小屋に近づく複数の足音がザリザリと砂を踏む音が、やたらと気味悪く聞こえたのだ。  ロキはベッドの上で起き上がり、小屋の入り口を振り返った。雨垂れや砂埃で汚れた磨りガラスの窓に、ゆらゆらと松明の火が映っている。 ーードンドンドンドンドンッ!  ロキが床に足をついたのと、戸が激しく叩かれたのはほとんど同時だった。  その音に応えようと、ゆっくりと立ち上がったロキの腕を爺が掴んだ。驚いて振り返ると、爺はいつのまにか体を起こして、意思があるとも無いともつかない視線を叩かれた戸に向けている。 「鴉だ」 「え?」  ロキは爺の言葉に眉を寄せた。 「鴉と狼に近づくな」  そう言った爺は殆ど無表情のままだ。しかし、戸に向けた瞳はゆらゆらと揺れ動いている。 「じいちゃん、どうした?」  ロキは爺の手を優しく解いて、その肩に手を置き顔を覗き込んだ。 「鴉と狼はオーディンの遣いだ。オーディンに会うな。会ってはいけない。絶対に」 「オーディンって……あの……?」 ーードンドンドンドンドンッ!  また戸を叩く大きな音に、ロキはびくりと体を揺らした。

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