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6-3.
ウテナは貿易が行われる町だけあって、珍しい生き物にも耐性があるようだ。フェンを連れていても、リドネブの街を歩いた時ほどは注目を集めることはなかった。
海を目印にすれば、おそらく港に戻ることは容易だ。帰り道がわからなくなる心配はないだろう。ロキはとりあえず目についた路地を進んだ。
さっきヴァクに言った、この街に「知人」がいるというのは嘘だ。しかし、この街に会いたい人がいるのは本当だった。
ウテナというこの街の名前を、あの夜爺が口にしていた。
ウテナの占いババアを頼れ。このところすっかり正気を失っていた爺の言葉を、ロキは話半分聞いていたのだが、実際にこの町の名をきいて、どうしても確かめたくなってしまった。
占いババア……と言っていたのできっと年配の女性だろう。
何人かの商人や通りすがりの人に尋ねると、占いババアの居場所は、思ったよりもすぐに見つかった。
段々畑のように家を並べるこの街の、海から数えて三段目の道だ。その東側から三番目の赤い屋根の家の隣の小道を入って、右に行って左の突き当たりの家。光の当たらないその細い道でひっそりと水晶玉の絵柄の釣り看板が下がっていた。
木製の扉は真ん中にガラスが嵌め込まれているが、砂埃で汚れていて中を伺うことはできない。ロキはドアノブに手をかけて押し引きしてみたが、ガチャリと揺れただけで開かなかった。
「何かご用ですか?」
その声にロキは振り返った。
立っていたのは買い物籠を抱えた女性だ。スカートにエプロンをつけたままの格好で、赤毛の髪は機能性だけを重視したかのようにギュッとまとめて後ろで結ばれている。ロキよりはいくつか年が上だろうか。
「占いババアってあなたのことですか?」
ロキが尋ねると、女性は一瞬驚いたように目を開いた後で、声を上げて笑った。
「占いババアは多分うちの祖母のことね。そこ、おばあちゃんのお店なの」
「おっと、これは失礼」
非礼を詫びたロキに、女性は「いいのよ」と言いながら顔の前で手を振り愛想よく笑って見せた。
「おばあちゃん、何年か前にお店閉めちゃってね」
「そっか……」
その言葉に、ロキは肩を落とした。
「おばあちゃんの知り合い?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
ロキは口篭った。
爺の話は本当だった。ウテナの街に占いババアは実在して、きっと爺の知り合いなのだ。
しかし、会ってどうしたいかを決めていたわけではない。ただ、ミッドガルドを離れると言うのに別れを告げる相手もいないロキは、何となく爺の痕跡を辿ってしまったのだ。
「よかったら、うちに来る? おばあちゃん今一緒に住んでるの」
ロキの様子に何かを感じたのか、女性は優しい声音でそう言った。
女性の申し出に頷き、ロキは彼女の家に連れて行ってもらった。家はすぐ近くの路地を出たところにあって、光の当たる緑色の屋根だった。
女性はそこに夫と、おばあちゃんの三人で暮らしているという。夫は漁師で一年のうち大半を海の上で過ごしているので、ほとんどはおばあちゃんと二人きりだそうだ。
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