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11-3.
着替え終えると、見えない何かに引きずられるように、ロキは檻の中へと乗り込んだ。そこでやっと、首にまとわりついた光が消えた。
「フゥン! フンフンッ!」
「イッヌはデカすぎて入らないからぁ、歩いてぇ」
「ブフゥンッ!」
フェンは大きく首を振り、その後でぶるりと体を震わせると、その姿を人へと変えた。
「どぉへぇっー‼︎」
フェンの姿を見た青白い顔の男は、感情のこもらない変な声をあげて眉を持ち上げた。わかりにくいが、どうやら驚いたようだ。
「俺もロキと乗る!」
「もぉー! 自慢げにぶら下げてんなよぉ、これ着ろってぇ」
青白い顔の男は嘆かわしげにそう言うと、全裸のままどこも隠さず台車に乗ろうと足をかけたフェンに、ロキに渡したものと同じ衣服を投げ寄越した。
フェンはそれに袖を通すと、狭っ苦しい檻の中に潜り込んできた。直後檻の扉は閉められ、ガシャリと鍵がかけられた。閉じ込められたと言うのに、何故かフェンは嬉しそうにロキに擦り寄り体をぎゅうと抱きしめてくる。
「おま、な、なんでこの狭苦しいのにわざわざ乗ったんだよ!」
「だって、ロキと一緒がいい!」
フェンはロキの脚の間に体を入れ込み、膝の上に抱き抱えると、逃さないとでも言いたげに鼻先をロキの頬に擦り付けた。
甘えるようなその仕草に、ロキはため息をつきながらもその頭を撫でてやる。
「いぃ~くぅ~よぉ~」
妙なイントネーションで青白い顔の男が言うと、ぐらりと揺れて、キュルキュルと音を鳴らしながら台車が動き始めた。
「あ~おもてぇ~めんどくせぇ~」
と男はずっとぶつぶつ嘆いている。
「どこに連れて行くんだ⁈」
答えを聞くのが怖かったが、ロキは檻の中から男に向かって問いかけた。格子はちょうど台車の側面に向けてのみ施されていて、正面にいる男の姿はどんなに格子に顔を押し付けても、檻の中からは見えなかった。
「列に戻さなきゃって言ったでしょうが、もうめんどくさいから黙っててぇ~」
「れ、列ってなに……ま、まさか死者の……⁈」
「はぁーめんどくせぇっ」
男はそれを最後に、ロキが何を聞いても答えなくなった。
「あの大穴は冥界の入り口だったのか? それとも、単純に俺たち死んだ?」
ロキは仕方なしにフェンに問いかけるが、案の定フェンは首を傾げた。
「俺、死んだことないからわからない」
「……だよな……」
こんな状況だというのに、フェンは嬉しそうにロキに頬や鼻先を擦り付けてくる。挙句また顔をベロベロ舐められて、ロキはやめろとフェンの頬を両手で掴んだ。
「ロキ、無事で嬉しい! すごく心配した!」
この状況が無事と言えるか定かではないが、どこか能天気なフェンの様子に、緊張が僅かにとけて、ロキはふぅと息を吐いた。
「俺も嬉しいよ、フェン。 お前、雪に埋もれて死んだと思った」
またわしゃわしゃと頬や耳の裏、白くて綺麗な髪を撫でてやると、フェンは気持ちよさそうに目を細めている。
「埋もれたけど、金の糸に引っ張られた!」
「金の糸?」
「うん! それで外に出たら、ロキいなくて、匂いを辿ってあそこまでいったんだ!」
そして、そこで巨人族らに犬……狼の姿で捕まって、食べられそうになったと言うことらしい。
「なぁ、金の糸って、もしかして髪の毛か? 長い金髪の男がいなかったか?」
ロキの頭に浮かぶのは、あの牢の扉を開けたガイドの姿だ。
「わかんない、糸しか見えなかったよ」
フェンはそう答えたが、ロキはフェンを助けたのもガイドではないかと考えた。
ロキやフェンが道を絶たれそうになると、ガイドが現れ助けてくれる。まるで二人揃ってどこかに導こうとしているようだ。
「あいつも、オーディンの遣いなのか?」
「うん?」
ロキの呟きに、フェンは首を傾げた。
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