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12-7.

 ロキはその距離からニーズヘッグの姿を観察した。やはり怪我をしているようには見えないが、本当に淋しがり病で飛べないのだろうか。 ――ガリガリガリガリ  木の根を削る音がする。歯を擦り付けるような仕草だ。   「なあ、もしかして、口の中、気持ち悪いのか?」  ロキはニーズヘッグに尋ねた。  ニーズヘッグは顎を引いたまま、深緑の瞳をロキに向け、「ピュォッ」と鼻から息を吐いた。 「口の中って?」  フェンがロキに尋ねる。 「さっき見えたんだよ、こいつ奥歯になんか挟まってる」 「うぇっ、それは気持ち悪いねっ!」  フェンは何やら自分ごとのように眉を寄せて口をもごもご動かしている。 「だからずっと根っこに歯を擦り付けてんのかも……」 「え、じゃあ、それ取ってあげたら、根っこを齧るのやめて、とんだりして?」  ロキとフェンは顔を見合わせ、お互いに二度瞬きをした。 「まっさかぁ、それぐらいで飛んだりしないだろ」 「だよね、流石に歯にものが挟まってるから飛ばないってわけじゃ無いよね、淋しがり病だもんね!」  そう言ってカラカラと笑い合う。しかし、少しして息を吸い込み、またお互いに顔を見合わせた。 「やるだけやってみる?」 「だな、コイツに頼らないと上に行けないわけだし」  二人はまたニーズヘッグに視線を戻す。  ニーズヘッグは何やら不安げに「ピュォッピュォッ」と空気を吐いていた。 「よ、よしっ、俺が手を突っ込んでみる」 「えっ、ぇぇ! 噛みつかれない⁈」 「やるしか無いだろ」  ロキはごくりと唾を飲んだ。 「フェン、コイツの口開かせて顎抑えててくれないか」 「わ、わかった!」  フェンがニーズヘッグの首にしがみつき、その顎に手を伸ばすと、ニーズヘッグは驚いたように、根っこから口を離し、首を左右に大きく振った。その反動で、フェンは振り飛ばされて、泉の中に尻餅をつく。  どう考えても口に手を突っ込んで大人しくしているとは思えなかった。 「なぁんだよ、なぁにしてんのぉ!」  泉の岸辺から、ガルムがめんどくさそうに声をかけてきた。 「こいつ! 奥歯になんか詰まってんだよ! それ取ったら飛ぶかも!」 「ガルム! 手伝って!」  ロキとフェンはそう声をかける。 「えぇ~めんどく……っイテッ!」 「何モタモタしてんのよ! さっさと行きなさい!」 「はぁい!」  ヘルに尻を叩かれて、ピンと背筋を伸ばしたガルムは、荷台に積まれていたらしきロープを手に、ザブザブと泉を踏み締めてこちらにやってきた。 「手ぇ突っ込むのはごめんだよぉ 手がなくなったらヘルちゃん抱っこできないからねぇ」  そう言いながら、ガルムはロープの先端で円を作って何やら細工をしている。 「コレをニーズちゃんの上顎に引っ掛けて抑えるから、どっちか手突っ込んでね」 「わかった、俺がやる!」  フェンが上半身裸だというのに、袖をまくる素振りをみせた。 「いや、俺がやる。 実際に見たのは俺だし。フェンはガルムと一緒に、ニーズヘッグの首を抑えてくれ」  ロキの言葉にフェンは最初躊躇いを見せたが、すぐにこくりと頷くと、ニーズヘッグの横に並んだ。

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