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13-5.

   暫くぶりに体を洗い、清潔な衣服に身を包んだ。  シンプルなデザインのシャツと綿素材の柔らかな下履きは、フレイとレイヤの父親のものらしい。  ロキには少し大きくて、シャツの袖を捲っているが、フェンにはちょうどいい大きさのようだ。  洗い場から先ほどのキッチンのあった部屋に戻ると、なんとも芳しい香りが先ほどよりも強く立ち込めている。テーブルの上で湯気が上がっていた。  庭で採れた巨大なカブを使ったらしいクリームスープ。軽く炙ったレーズンパンには薄くスライスしたハムが乗せられている。その傍には新鮮な葉野菜と柑橘の果実を和えたサラダまで用意されていた。  全てレイヤが用意してくれたらしい。フレイは書斎で調べ物をしたのちに、なにやら道具をもってニーズヘッグのもとへ一人で出かけてしまったようだ。  レイヤに勧められるまま、席についたロキとフェンは数日ぶりのまともな食事に無我夢中でかぶりついた。  レイヤは話し相手に飢えていたようだ。兄との会話は植物や生き物の生態についての話ばかりで退屈だといいながら、食事を続けるロキとフェンに向かってひたすら一人で喋り続けた。  そのおかげでロキたちはフレイとレイヤの素性を知ることとなる。 「もともと私たちは、ヴァン神族の出身なのよ。大昔はオーディンたちアース神族とは敵対するような関係にあった」  ロキもフェンも、上層の事情については無知である。上層には神が住んでいることは知っていたが、その神にも種族の違いがあるなど知らなかった。 「それで、ヴァン神族とアース神族の友好関係を築くために、いわゆる人質交換がされたのよ。それが、私とフレイのパパ。私たちはパパに着いてここにきたの」 「じゃあ、割と最近まで神様同士で争ってたのか?」  ロキはレーズンパンを頬張りながらレイヤに尋ねた。 「そんなに最近でもないわ、この家の脇の木は私たちがここにきた頃に植えたものだから、苗木が巨木に育つくらいの時間は経ってるわね」 「えっ、まって……フレイとレイヤって、何歳なんだ?」  レイヤはロキの質問に、「うーん」と口やや尖らせながら中空を仰いだ。 「数えてないわ」  結局わからなかったのか、レイヤは首を左右に振っている。 「神族ってみんなそうなのか? なんていうか、時間の間隔が俺たちと全く違う。不死が故か?」 「え?」  ロキの質問に、レイヤは驚いたように眉を上げた。 「不死? あなた、神族が不死だと思ってるの?」 「え? 違うのか?」 「違うわよ!」  レイヤはそう言って、ロキの無知を笑った。 「神は不死じゃないわ、現に私たちのパパは亡くなった」  ずいぶん遠い出来事のように、レイヤは言った。 「最高神でもそれは同じよ、だからオーディンは黄昏に怯えて、力のある神族を神殿に集めている」  レイヤの口から最高神オーディンの名前が出てロキの心臓がピクリと跳ねた。 「神族を集めてるって……君たちは行かないのか?」  ロキが尋ねると、レイヤは首を横に振った。 「私たちの立場は少し特殊なのよ。かなり自由が許されてる。神殿に行くこともできるけど、私もフレイも戦いは嫌いよ。だから、ここで穏やかに終わることを選んだの」 「終わる……?」 「ミーミルの予言、神々の黄昏」  レイヤが静かに呟く。 「中層には朝が来なくなって、冬が続いて、女の人が生まれなくなってる。黄昏はそのことで引き起こされる戦いのことだってきいたけど……」  いったい誰と誰の戦いなのかと、ロキは確かめるつもりでレイヤの物憂げな顔を覗き込んだ。 「暗闇が世界を包み、寒い寒い冬が続いて、畑が途絶える。生き残りをかけて、巨人族や神が虐げた怪物が神界に押し寄せて、オーディンを討つ。そして、ユグドラシルが燃え上がり、万物は死に絶える」

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