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16-1.望まない理由

「オーディン、これはどういうことだ」  翌朝、部屋を訪れるなり、トールは眉を寄せてそう言った。  結局、ロキを縛り上げたまま一人でベッドに入ったオーディンは、トールが起こしにくる今の今まで眠っていたのだ。  一方のロキは縛り上げられた状態のままで世を明かした。  鴉にもらった薬のせいで、一晩中ロキの体は昂ったままだ。この場から去ることも、自分で欲を発散することも叶わずに、顔を真っ赤にしたまま虚な目で床を眺めていた。 「どういうことって、縛っておいただけだ」  オーディンはベッドに横になったままそう言うと、大きな枕を抱えてあくびをした。 「そうじゃない、それは見ればわかる。俺が聞いているのは、何故こんなことをするのかということだ」  トールは言いながら、止まり木に引っ掛けられていた鉄鎖を外した。床に崩れ落ちそうになったロキの体を支えると、手に巻きついた鎖も解いてくれる。  トールはオーディンのことを主と言っていたが、口ぶりからして、ある程度対等にものが言える立場のようだ。広間で会ったときは、トールはオーディンに丁寧な言葉遣いをしていたが、あれは表向きの態度なのだろう。   「何故? 何故と聞いたか? そんな卑しいガキ、抱くきになれん。盛ってきそうだったから動けなくして口を塞いだ」  オーディンは自らの髪を指に絡めて弄びながらそう言った。 「オメガがどういう生き物か、お前は知っているだろ? こんな状態で放置するのは不憫だ」  まるでわがままな子供を諭すようにトールはいう。  ロキは昂りが治らず、息苦しいほど熱い体を自ら抱きしめてるようにうずくまった。「生き物」と言われたことも「不憫だ」と同情されたことも、今のロキには気にしている余裕すらない。 「なんだトール、そんなに言うならお前が抱いてやればいいだろ」  オーディンのその言葉に、傍でトールが息を飲んだのがわかる。ロキはそこで初めて、自分の肩を支えるように添えられたトールの手の熱に気がついた。 「忍耐強いつもりだろうが、オメガの匂いに当てられてるな? 顔が真っ赤だぞトール」  嘲るように笑うオーディンに、トールは言葉を詰まらせた。 「もしくはその辺にほっぽり出しておけ、戦いを控えて荒ぶる神々にはちょうどいい遊び相手だ」 「オーディン」  嗜めるようにトールが名前を呼んだが、オーディンはうんざりしたように両手で耳を塞いだ。 「さっさと連れてけ」  主のその言葉に、トールは苦々しい顔でため息をついた。 「……っざけんな……」  整わない呼吸の間を縫って、ロキは声を絞り出した。トールの腕を掴み支えにするとそのままフラフラと立ち上がる。

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