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16-2.

 オーディンは相変わらず寝転がったまま、侮蔑の視線をロキに向けていた。 「俺は……こんなの、さっさと終わらせたいんだよ……今すぐ器を創って……黄昏を止めて……じいちゃん迎えに行って」 ――帰るんだ、あいつのところに!  そこまで言葉にならないまま、ロキは倒れるようにオーディンに掴みかかった。  慌ててロキの体を背後から抱え上げたのはトールだ。 「ロキ、やめろ」 「……っなせ!」  ロキは足をばたつかせて抵抗するが、ただでさえ疲弊している上に、屈強なトールの腕に抑えられてはその抵抗など殆ど意味をなしていない。結局はトールの肩に担ぎ上げられてしまった。 「可愛がってやれよ、トール」  部屋から連れ出される途中に見えたオーディンの小馬鹿にするような表情に苛立ち、ロキはトールの背中に拳を打ちつけた。 「おろせトール!」 「暴れるな」 「なんなんだよ、あいつ! 最高神じゃなくて、ただの性悪じゃねえか!」 「……否定はしない」  ロキは散々オーディンへの不平不満をトールにぶつけて、抱えられた肩の上でジタバタと暴れ続けた。  トールはロキの言葉に時折相槌を返し、殆どを無視したままつかつかと廊下を進んでいく。  運び込まれたのはロキの部屋だ。  放り投げるかのようにベッドの上に下ろされたので、フレームがギジリと音を鳴らした。 「くそっ、オーディンのやつっ……!」  まだ、苛立ちが収まらずに毒付いたロキだったが、不意に見上げたトールの様子に驚き、ぐっと息を飲んだ。  先ほどのオーディンの言葉が頭をよぎる。彼が指摘した通り、トールの表情はオメガの匂いに当てられて興奮を見せていた。  ロキは殆ど無意識に欲情する自分の体を隠すように毛布を手繰り寄せる。  そのロキの腕をトールの大きな手のひらが掴み、ロキは体をびくりと揺らしてこわばらせた。 「辛いなら相手をするが、どうする」  そう問われて、ロキは小さく開いた唇の間から、わずかな吐息を漏らした。  トールは普段、どこか淡々として感じるほどに穏やかに感情を押し隠す、理性的な男に見えた。しかし、今の彼は、獲物を前にして喰らいつくのを堪える獣のようだ。  こちらを見下ろす逞しく端正な顔に、ロキの本能の部分が手を伸ばしかけていた。 「……っ」  その自分に気がついた瞬間、ロキは自身に対して激しい嫌悪を覚え、ぐっと奥歯を噛み締めた。 「いい、大丈夫」  ロキは掴まれた腕を引いた。  トールはまだ手を離さないまま、何か言いたげな様子だ。真っ直ぐに視線を向けられて、ぐらぐらと理性を揺さぶられる。 「いやだ。離してくれ」  掴まれていない方の手で、ロキは自らの目元を覆った。程なくしてトールの手の力が緩み、やがてロキの上からトールの体温が遠のいた。 「少し休め。外に出るのは匂いがおさまってからにしろよ」  それだけ言うと、トールはロキを残して足早に部屋を出て行った。  ロキはベッドにうずくまったまま、自らの手首をさすった。オーディンに縛られたせいで鎖の跡が残り、紫色の痣になっている。ついさっき、その部分を握ったトールの熱がまだ表面に燻っていた。  ロキは下腹部に手を伸ばす。長い時間興奮したままだったそこが、解放を求めている。前だけではない。後孔も熱を欲してじくじくと下着を濡らしていた。 「最悪だ……誰でもいいのかよ、俺」  もし、もっと強引に迫られていたら……そこまで思い浮かべて、ロキは考えることをやめた。  ただ本能のままに自らの下半身を弄り、嬲る。そして達するその瞬間、縋るように白い狼の名前を呼んだ。

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