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20-3.

◇  南東の部屋はガラス張りのサンルームが併設され、明るい朝日が入り込む。神殿の中でもロキが気に入っている場所の一つだ。  その朝、朝食を終えたロキが一人その部屋に入ろうと扉に手をかけた時だった。 「やあ、ロキ! 今朝はちゃんと約束を覚えていたんだな!」  そう言って廊下の向こうから管楽器のような張りのある声で笑ったのはバルドルだ。腕には黒髪の少女を抱き抱えている。少女は、バルドルの笑い声がうるさいとアピールするかのように、口を尖らせ両手で耳を塞いだ。 「おはよう、ヘル、バルドル」  ロキはバルドルの腕の中にいる少女、ヘルの頭に手を置き顔を覗き込んだ。  オーディンと同じ漆黒の黒髪は、頭の高いところで二つに分けて結ばれている。ヘルの黒々とした双眸がロキを見上げ、抱っこをせがむかのように両手を伸ばした。 「ロキがいいわ、バルドル暑苦しいんだもん」 「なんだよ、ヘル、連れないなぁ」  そう言いながら、また管楽器のように笑い、バルドルはヘルの体をロキの腕に渡した。  ヘルはロキの創った器の一人だ。歩けない女、とオーディンが言ったのは彼女のことだ。 「ヘル、探したんだよ? どこにいたんだい?」  ロキが尋ねると、ヘルは気まずげに俯きモジモジと体を揺らした。 「なんだ、ロキ! 知らないのか! 最近のヘルのお気に入りは冥界の穴なんだぞ?」 「ちょっと! バルドル、そんなでっかい声で勝手に言わないでよ!」  ヘルがロキの腕からバルドルの肩を叩き、その後恥ずかしそうにロキの首に腕を回してしがみついた。 「冥界の穴? 地下牢にいたの?」 「そうだ! なんでも暗い穴の底が気になって仕方ないらしい! 理解できんな!」  そう言ってまたバルドルは管楽器のように笑う。そのバルドルに向けて「勝手に喋るな!」とヘルがロキの肩で叫んだ。 「ところでこの部屋か? お前の新作がいるのは」 「うん」  ロキが頷くと、バルドルは徐に周囲を見渡した。 「オーディンはどうした? あいつは来ないのか?」 「うん、来ないって」 「なんだ、冷たいやつだな。自分の子供みたいなものだというのに」 「なあ?」と揶揄いながら同意を求めるかのように、バルドルはヘルの結んだ髪の毛先を摘んで弄んだ。ヘルは不機嫌に口を曲げ、ペチリとバルドルの手を払った。 「いいんだよ。ところで、ヨルムを見なかった? あの子も今朝から見当たらなくて」  今度はロキが周囲を見渡す仕草をした。 「いや? みてないが、どこかその辺の隙間にでも入り……」  バルドルがそこまで言いかけたところで、ぼとりとその頭部に何かが降り注いだ。

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