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22-6.

◇  ロキは占いババアに言われた通り、大きな街道を進んだ。  明るくなってから最初についた街の換金所で持ってきた首輪や腕輪を見せると、店主は目の玉がこぼれ落ちそうなほどに驚いた顔をした。  しかしフードで隠したロキの顔を覗き込むと、どこか納得したように唸って、袋いっぱいの金貨を差し出し、腕輪だけを引き取った。  この店には今全てを換金できるほどの貨幣が無いという。  次にたどり着いた村は農村で、換金所が存在しなかった。そして、その次に辿り着いた街で首輪を見せると、店主はロキを一瞥してから、銀貨の入った小さな小袋をカウンターに置いた。  この値段ならば交換しないとロキが首を振ると、慌てて店主は金貨の入った大きな袋を追加で置いた。  そうして何日もかけて内陸へと進むにつれ、フェンリルが明らかに意思を持って歩き始めた。  手のひらに乗るほどだった体も両手で抱き上げるほどの大きさになっている。もう赤ん坊とともにスリングに収めることは困難だと思ったロキは決断をした。 「とりあえず、先に支払うのはこれだけです」  ロキは男に言った。  傷んだ黒髪と無精髭、しかしそこまで汚い身なりでもなく綺麗すぎるわけでも無い。一応、占いババアの助言を考慮した人選だった。 「本当にいいのかよ、犬の面倒見るだけでこんなにもらっちまって」  無精髭の男はロキから受け取った袋の中を覗き込みごくりと唾を飲んでいる。  川の近くにある森の中の小さな小屋で暮らすこの若い男は、家族もなく、釣りや狩できままに生計を立てているという。 「はい、でも約束は守って、絶対に」  ロキは表情を硬く結んで言った。 「わかってるよ、首輪は絶対外さず繋いでおく」  男はフェンリルの首に繋いだ首輪に確かめるように触れて見せた。そこに繋いだ鎖はこの小屋のウッドデッキに強固に結び付けられている。 「それだけじゃない。食事はちゃんと与えて、暴力は絶対振るわないで」 「ああ、わかった」 「定期的に見にくる。追加のお金はその時に支払う」 「ああ、わかった」  無精髭の男は腕組みしながら、ニヤニヤとフードの奥のロキの顔を覗き込んだ。 「な、なんだ」  ロキは赤ん坊を抱き直し、一歩後ろに下がった。 「あんた、リドネブの男娼か?」 「だ、だんしょう……? リドネブ?」  ロキは耳慣れない言葉に眉を寄せた。 「ああ、あそこはここらじゃ有名な大きな歓楽街があるからな、金払いもいいし綺麗な顔してっからてっきりそうだと思ったが」  なんだか下品な男の笑い方に、ロキは身震いしながら顔を顰めた。 「子連れじゃ無理な話か。まあ、金さえちゃんと払ってくれるなら、約束は守るぜ」  男はロキの抱いた赤ん坊を見てからそういうと、ひらひらと手を振った。 「あと一つ、言っておく」  去り際に、ロキは一度立ち止まって男を振り返った。 「あ? なんだよ、内容によっちゃ追加料金だぜ?」 「その子を……その犬を、あまり可愛がるな」 「あ?」  男はポケットから取り出したタバコを咥え、マッチで火をつけ煙を吐いた。 「いずれ、殺さなければならないかもしれない」 「あ? 殺すのに、今は殴るな餌をやれってか?」  男は口の端にタバコを咥えながらヘラヘラと笑っている。  その男の言葉に、ロキはただ黙って頷いた。    男の小屋からさらに半日あまり、川の流れに逆らって歩き続けた。  森の中に本当に隠れるほどに小さな村と空き家を見つけたロキは、とうとうそこに腰を落ち着けることに決めたのだ。  ボロ屋を買取り、赤ん坊と二人ただひっそりとそこで暮らすことにした。

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