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23-5.
ロキは自分の腕の中の人物の無事を確かめるように恐る恐る視線を落とした。
「フェンッ⁈」
腕の中にあったのは、白い髪に透き通る肌、しばらくぶりに見る人間のフェンの姿だった。
衣服はオーディンが纏っていた紺の長衣だが、それ以外はフェンの姿をしている。
ニーズヘッグはゆっくりと旋回しながら、近くの丘の上に降り立った。気を失っているフェンの体を地面に下ろし、腕の中に抱きながら、ロキはぺちぺちと頬を叩いた。
「フェン、フェン! 起きろって!」
フェンは悶えるように表情を歪め、やがてゆっくりと瞼を持ち上げた。愛しいブルーの双眸がこちらを見上げ、ロキは涙を堪えきれずにフェンの体を抱きしめた。
「ロキ……これ、どうなったの……」
フェンはまるで深い眠りから覚めたかのように、ぼんやりとロキに尋ねた。
ロキは答えられないまま、丘の上からアースガルドを見下ろした。
ユグドラシルは光を取り戻し、まるで燃え上がるかのように煌々と輝いている。
神々と巨人族らが衝突していたあの広場からも、その光景は当然見えているはずだ。
「止まらない……」
燃え上がる森林の上昇気流にのって、熱い空気と喊声がここまで届いている。
ロキと同じくその光景を見つめたフェンがロキの手を強く握りしめた。
「もう、止められないのか……」
一度戦いを始めた彼らは、剣を収められずにいる。ユグドラシルが光を取り戻したとて、全てが元に戻るかどうかなど、すぐにはわからないからだろう。
ロキとフェンは手を握り合ったままただ呆然とその光景を眺めているしかなかった。こうして世界は終わっていくのか、と思いながら。
しかし、戦いは緩やかに終わりを迎えた。
ピタリと止まったのではなく、少しずつゆっくりと、両陣の勢いが衰えていく。
そのきっかけは、森林が燃える炎が巻き上げた煙でできた、灰色の雲だった。
雲はユグドラシルの光を跳ね返しながら、大粒の雨を降らせた。
雨が降った直後から、|炎の巨人《スルト》は溶けるように姿を消し、神々も巨人たちもその歩みを止めると、次々剣を収めていった。
雨は広域に降り注ぎ、森林の炎を消した後も何日も何日も降り続けた。
バルドルは言った。
ーーここから先は、何もかもがうまくいく。オーディンを信じろ
その言葉の通り、最高神オーディンがユグドラシルに光を取り戻したのだ。
その事実はアースガルドだけでなく、中層のヨト、スヴェルトさらには、ミッドガルドや冥界にまで広く知られることとなった。
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