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24-1.エピローグ

◇◆◇◆ ◇◆ 数ヶ月後・ヨト ◆◇  バルドルの光が朝を模し、野原を照らしている。  丘から流れる小川は雪解け水だ。冬が終わり春の訪れを伝える水音と、どこからか舞い戻った小鳥の囀り、そしてゆっくりと歩く馬の蹄の音が心地よく混ざり合っている。 「なんか、これじゃ子供みたいだな」  ロキは馬上で唇を尖らせた。  大きく太い足を持つヨトの馬は、高低差のあるこの地で多くの荷物を運ぶのに適した体つきだ。  ロキの後ろには、その体を支えるようにフェンが座り手綱を握っている。ロキは鞍の突起に手を置きながら、自らの今の状況を客観視して項垂れた。 「だってロキ、全然乗れないんだもん仕方ないじゃん。俺はくっつけて嬉しいけどね」    フェンはそう言いながら、鼻先をロキの頬に擦り付けた。 「狼やドラゴンには乗れたのに、なんで俺は馬に乗れないんだ」 「狼になろうか?」 「……いや、いい。また巨大化したら怖いし」 「大丈夫だよ、あれは俺がフレイの薬勝手に飲んだからだし」  フェンは笑ったが、ロキはやはりいいと頑なに断った。  黄昏が終わり、オーディンとバルドルの力によってユグドラシルが光を取り戻した。  アースガルドはその半分が火の巨人スルトにより焼き払われ、巨人族、神族ともども戦いによる人的被害は大きかった。  しかし今、戦う理由のなくなった彼らは、それぞれが復興と和解に向けて動き出したところだ。  最高神オーディンを失った神殿もまた、新しい体制へと変わろうとしている。  ミーミルは、混乱の最中姿をくらましたが、神殿はそれを追うことはしなかった。それは全ての元凶となったのはミーミルではなく、種族間の争いで彼一人を犠牲にし、予言や感覚を奪った神族だと考えたからだ。   「ロキ、見えてきたよ」  フェンが丘の向こうを指差した。  神殿から二人きりで出立し、ヴァン神族の領地を抜けて、虹の橋ビフロストからこのヨトに降りた。  そして辿り着いたこのヨト族の街は、オーディンの投げたグングニルの槍と雪崩で壊滅したはずだ。  しかし、今その街が少しずつ以前の姿を取り戻そうとしている。 「すごいね、城壁がもうあんなにできてる!」  フェンが感嘆の声を上げ、ロキもそれに頷いた。 「もともとはこんなに立派な街だったんだな……」  雪に埋もれ、瓦礫に塗れたあの姿は悪夢だったとでも思えるほどだ。  草木の生えた緑の丘に挟まれた豊かな地に、石造りの城壁が建てられ、その上からゆっくりと形を取り戻そうとしている街並みが見えた。

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