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24-2.
丘を降りて近づくと、逞しい巨人族たちが足場を組んだり資材を運んだりと、忙しなくあちこち行き来していた。
「ロキ、本当に大丈夫かな? 俺食べられちゃわない?」
「大丈夫だって、レイヤが先に手紙を出してくれただろ? もうヨトに敵対の意思はないって話だし」
ロキとフェンは馬から降りて、近くの樹木に手綱を結ぶと、こそこそと話ながら彼らの元に歩み寄る。
作業していた数人が二人に気づいて顔をあげた。
巨人族ではない余所者だとすぐにわかったのだろうが、確かにその表情には敵対の色はない。ただ「誰だ? こいつら?」というような表情だ。
「あ、あのっ、俺たちっ……」
おっかなびっくりロキが声をかけた時だった。
言葉の途中でドタドタと城壁の中から足音がする。
「う、産まれたぞ! 産まれた!」
内側の養生を捲り顔を出したのは、一人の巨人族の男だった。
作業をしていた他の者たちも、その声を聞いた途端、ロキやフェンのことなど視界から消し去り、みな一様に歓声をあげ、足場から飛び降り、城壁の中へと走っていく。
「なんだろ?」
「さ、さあ?」
フェンが首を傾げ、ロキはフェンの問いに肩を持ち上げた。
城壁に見張もいないので、ロキとフェンは彼らの跡を追って街の中へと入り込んだ。
少し進むとすぐに人だかりが目に入る。
街の建物は作りかけが多かったが、その建物は優先的に建てられたのか、既に立派に佇んでいた。
石造りの建物に取り付けられた木製の両開きの扉からは、溢れる人だかりがこぞって中を覗き込んでいて、それだけでなく窓にも人だかりが張り付いている。
「なんだろ? 全然中が見えないなっ?」
大柄な巨人族たちの後ろから、ロキは背伸びをしたり、首を伸ばしてみたものの、中を覗き込むことはできない。見えないとなると、ますます気になるというものだ。
「おーい、ちょっと、見せてくれよっ、って、うわぁっ」
急に足が浮かび上がり、驚きバランスを崩した体を支えた腕に、ロキは咄嗟にしがみつく。そこで、自分は抱き上げられたのだと気がついた。
「ヴァクッ!」
燃え上がるような赤い髪に屈強な体躯、ヴァクは巨人族の族長の息子だ。子供のように抱き抱えられ、ロキは無意識にヴァクの首に腕を回した。
ロキがヴァクの名を口にした途端、前方を塞いでいた巨人族らが振り返り、まるで波が引くかのように、その道が開かれた。
当然のようにヴァクが室内に入り込むと、その道の先には寝台の上で赤子を抱える人間の女性と、その女性を支えるように寄り添う巨人族の男の姿があった。おそらく夫婦なのだろう。
「産まれたか」
ヴァクが嬉々として彼らに言葉を向けると、夫婦は表情を綻ばせながら大きく頷いて見せた。
「ヴァク様、どうぞ抱いてあげてください」
女性がいうと、ヴァクはロキの体を床に下ろし、今度は注意深く赤ん坊を女性の腕から抱き上げた。
ロキと、後ろからついてきていたフェンはヴァクの腕の中を覗き込む。
産まれたばかりの赤ん坊は熟れた果実のように顔をくしゃくしゃにしながら、小さな手を何やら必死に動かしている。
「可愛い……」
ロキが赤子の手のひらに指を乗せると小さな力が握り返した。
「あ、も、もしかして、この子……女の子?」
フェンの言葉に、ヴァクはこくりと頷いた。
「そうかっ! だからみんなこんなに集まって……」
バルドルの光が失われてから、ヨトには女の子が生まれなくなっていた。だから光を取り戻した今、女の子が生まれたということはとても大きな意味があるのだ。
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